第22話 3匹のこぶた?

 むかしむかし、あるところに、3匹のこぶたの兄弟がおりました。兄弟のお母さんは、3匹を自立させるため、それぞれ家を建てて住むように申し渡しました。


「さりとて、母上。」


 と長男が言います。


「先立つものが無ければ家は建ちませぬ。我らはただのニート。そんな莫大な資金を持っていようはずもありません。」

「知ったこっちゃないよ。あたしは、ニートが家に3匹もごろごろしてるのが目障りだから追い出すって言ってんだ。」

「そんな、身もふたもない。我が子が可愛くはないのですか。」

「いい歳して親にたかるんじゃない。親が大事ではないのですかってなもんだ。とっとと出て行きな。」


 箒で激しく突かれて、兄弟は家から追い出されてしまいました。


 仕方が無いので、兄弟はそれぞれバラバラに別れて住む場所を確保しに行きました。


 長男はひとまず河川敷に行きました。雨をしのげるよう、橋の下にその辺の草を集めて適当な寝床を作り、ごろ寝してみます。柔らかくて意外と素敵な寝心地です。


「当面はこれで良いだろう。」


 先のことを心配しすぎないという能力を発揮して、長男は草の家でぷうぷうと鼾をかいて寝てしまいました。


 さて、次男です。次男は泳げないので川はやめて、公園にやってきました。園内にブルーシートが落ちていたので、手に入れてあります。これを適当に木の枝に引っ掛けてテントっぽい物を拵えれば、日光も風雨もしのげて、まずまず良い家です。


「しばらくはこれで何とかなるだろう。」


 目の前のことだけに集中するという能力を発揮して、次男は木の家で深い眠りについてしまいました。


 最後に、三男です。末っ子で甘やかされ、ひと際わがままに育った三男、家を作る気なんてさらさらありません。その辺をブラブラして、おんぼろの空家に潜り込みました。荒廃してはいますが、元はしっかりとした石造りの家のようです。


「こりゃ、いいや。ずっとここで暮らそう。」


 無駄に悩まないという能力を発揮し、湿った布団に身を横たえた三男は、石の家でまどろみのなかに落ちて行ってしまいました。


 ここで登場するのが、役所の精鋭部隊です。町の治安を守るため、町の景観を保つため、日々毛深い強面でにらみを利かせる彼らはオオカミと呼ばれています。


 オオカミはまず、河川敷を見回りに来ました。重点項目である橋の下をチェックすると、案の定誰かが寝起きしています。長男のこぶたです。


「ここを不法に占拠してはいけません。」

「居場所が他に無いのだから、仕方がないではないか。立ち退けと言うなら、住む場所を寄越せ。」

「河川は急に増水することがあり、大変危険です。すぐに立ち退いてください。」


 長男の抗議に全く耳を貸さず、オオカミは草の布団を取り壊して川に捨ててしまいました。家を失った長男は慌てて次男のいる公園に駆け込みます。


 しかし、オオカミは公園にもやってきました。公園のあちこちには「小屋掛け禁止」の張り紙がされています。ここもオオカミの巡回対象なのです。


「ここに小屋を設置しないでください。」


 長男が折角次男の家に逃げ込んだのに、早速オオカミに目を付けられました。オオカミは木の家の外からよく通る声で何度も勧告してきます。


 さっきは長男がオオカミに反論しても無駄だったので、今回2匹は居留守を使うことにしました。長男と次男は黙ったまま、家の中で息をひそめて様子を窺います。すると、何という事でしょうか。オオカミはブルーシートを取り除け、次男の木の家をあっという間もなく解体してしまったのです。


 さあ、大変。このままではオオカミにつかまってしまう。長男と次男は慌てて公園から逃げ出し、三男が居ついた空家に駆け込みました。


「オオカミがやって来るぞ。下手をしたら、家を壊されて追い出されるかもしれない。」


 長男が青ざめながら三男に状況を説明しました。しかし、三男は余裕のよっちゃんです。


「石の家を壊すなんて、オオカミでもできないよ。草やブルーシートとは違って、石は重くて動かせない。」


 それもそうか、と長男・次男は胸をなでおろしました。


 ところが、そうは問屋が卸さない。外から重機のエンジン音が聞こえたかと思ったら、家がミシミシと揺れ始めました。バリバリっと大きな音を響かせて、屋根が、壁が、壊されていきます。


「何をするんだ。中にぶたがいるんだぞ!」


 三男が大声を上げました。すると、外からオオカミの声が返ってきました。


「この特定空家は行政代執行で撤去中です。危険なのですぐに立ち去ってください。」

「ここは俺の家だ!勝手に壊すな!」

「所有者は確認してあります。あなたではありません。それに、万一あなたが所有者であるなら、代執行に要した費用を請求させていただきます。」


 オオカミがそう言った直後、屋根に空いた穴から大きな石の欠片が落ちてきて、台所にあった大鍋にスコーンと入りました。石をぐらぐら煮たって食べられやしませんし、オオカミをやっつけることもできません。こぶたたちは裏からこそこそとしっぽを撒いて逃げ出しました。


 とぼとぼと道を歩く3匹のこぶた。どうしようもなくて、実家に出戻りました。優しいお母さんは温かく我が子たちを迎え…るはずもなく、ビシバシと容赦なく当たりました。こぶたたちは母の命令でハローワークに通い、辛くも職に就き、3人の力を合わせれば生きていける程度の収入を得られるようになりました。


 こうして、3匹のこぶたは頑丈な実家で末永く仲良く一緒に暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。

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