第21話 ラプンツェル?
むかしむかし、あるところに、夫婦が住んでいました。夫婦の家のそばには、おそろしい魔女の住む館がありました。
ある時、子を身ごもった妻は、魔女の屋敷の庭に生えているやせいのレタス(ラプンツェル)を無性に食べたくなりました。そこで、夫に頼んでこっそり採ってきてもらったのですが、これが食べれば食べるほどまた食べたくなる。やむなく、夫はもう一度レタスを採りに行きました。すると、案の定、魔女に見つかってしまいました。
夫が事情を説明すると、魔女はレタスを好きなだけやるから、代わりに生まれてくる子を寄越せと言いました。魔女が怖くて仕方がない夫は、その場を切り抜けるために了承しました。しばらくして、妻は可愛らしい女の子を産み落としましたが、約束通り魔女がかっさらって行ってしまいました。
魔女は女の子をラプンツェルと名付け、大切に育てました。
ラプンツェルが大きくなったある日、魔女はラプンツェルを館から森の中の塔に移しました。この塔は入口もはしごもなく、高いところに窓が一つあるきりです。魔女が塔の中に入ろうとするときには、こう言います。
「縄、よーい!」
すると、ラプンツェルが窓からするするとその長い美しい金髪を下ろします。
「上方確認、よーし!一人目、登れ!」
「ラジャー!」
魔女の指示に従って、塔の周辺に待機していた屈強な若者がラプンツェルの髪を掴んで塔の壁をよじ登っていきます。ほぼ垂直な壁です。非常な困難を伴いますが、幾度も訓練を潜り抜けてきている若者は難なく窓まで登り切りました。
「周囲確認、救護者一名!応援を要請します!」
窓から若者が叫びました。魔女は腕を組んで仁王立ちしたまま、頷きました。
「二人目、続け!」
「ラジャー!」
もう一人、逞しい若者が先ほどと同じように塔の壁を登り始めました。順調に登り進めているように見えましたが、あっ、危ない。足を滑らせて、真っ逆さまです。ところが、何という事でしょう。ラプンツェルの髪が、生きているかのように動いて青年を絡めとりました。危ういところで青年は命拾いです。
「何をしておるか!貴様は焦り過ぎだ!」
「はっ!申し訳ありません、隊長殿!」
「やり直し!」
二人目は息を整えて、もう一度挑戦です。今度は慎重に、かつ迅速に。青年は無事登り終えました。玉のような汗が額に光ります。しかし、訓練はここからが本番。あらかじめ塔の頂上に控えていた怪我人役を、青年二人で安全な場所に下ろさなければならないのです。とても難しい訓練です。幾たびか失敗が続きましたが、そのたびにラプンツェルの髪が的確にフォローし、二人は何とか訓練を終えることができました。
このほかにも幾人もの男たちがさまざまなメニューをこなし、その陰ではラプンツェルが事故や怪我の無いようにサポートを行います。こうして、この日のトレーニングも無事に終了しました。
トレーニングが終わると、ラプンツェルは実家に向かいました。明日は非番なので、魔女の館に詰めなくても良いのです。
「ただいまー」
と帰れば、父と母が温かい食事を準備して待っていてくれます。
「今日の訓練はどうだった?」
「みんな良い感じに仕上がってるよ。どんな臨場でもどんと来いって感じ。隊長も気合入ってる。」
「そろそろ夏山シーズンだし、ハリケーンも来るもんな。レンジャーは大忙しの季節だよな。」
「最初はどうなることかと思ったけど、お前がちゃんとお役に立ててるようで嬉しいねえ。」
魔女の庭のレタスを山ほど食べた母から生まれたラプンツェルには、魔女の素質がありました。魔女から英才教育を受け、魔女が組織するレンジャー部隊で幼いころから活躍しているのです。しかも、美少女が隊に存在することで、隊に入りたがる男子が急増。ラプンツェルが生まれる前にはキツイ臭い汚いと敬遠されて風前の灯火だったレンジャー隊ですが、今では入隊試験を突破しなければ入れません。隊は生まれ変わったのです。
その時、ラプンツェルの髪が一筋、ピンと立ちあがりました。
「出動だ!」
「え、非番じゃないのかい?」
「西の方で大きな土砂崩れがあって、人手が足りないみたい。行って来るね!」
ラプンツェルはパンをかじりながら、魔女の館にある災害救助本部に駆けて行きました。
こうして、ラプンツェルは魔女率いるレンジャー隊の一員として、地域の人たちの希望の綱として、末永く活躍したのでした。めでたし、めでたし。
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