第16話 ピノッキオの冒険?

 むかしむかし、あるところに、ジェペットというおじいさんがいました。ジェペットじいさんは友達から木の棒をもらって、あやつり人形を作りました。すると、その人形は生きているかのように動き、話すようになりました。ジェペットじいさんはその人形をピノッキオと名付けました。


 ピノッキオは根っからの悪者ではありませんが、怠惰で、欲望に弱く、嘘つきで、いたずらばかりしていました。お友達になりたくもないし、我が子であったら子ガチャ外れだと言いたくなる有様です。そんなピノッキオはあれやこれやのひどい目に遭い、ジェペットじいさんとも生き別れとなりましたが、全て自業自得でした。


 ある時、何度目かのピンチで首を吊られたピノッキオでしたが、青い髪の仙女のおかげで一命をとりとめました。しかし、嘘をつくと鼻が伸びてしまうという状態になってしまいました。


「僕は軽量鉄骨造である。」


 びよーん、と鼻が伸びました。おお、とピノッキオは目を丸くします。


「僕は木造である。」


 これは真実なので、鼻が伸びません。


「この能力、使えるぞ。」


 この独り言に対しても、鼻に変化は生じません。ピノッキオは、よし、と気合を入れました。のこぎりを片手に持って、鼻を睨み据えました。


「砂糖は辛い。ネコは空を飛ぶ。ジャガイモは金属だ。」


 嘘をどんどんついて、鼻が伸びる度に切り落としていきます。どれだけ切り落としても、嘘を吐くたびに几帳面に鼻は伸びてくれます。おかげで、綺麗に太さと長さの揃った木材がこんもりと山を成しました。ピノッキオはそれを背負って町へ出て、お金に替えました。そして、そのお金を元手に、ピノッキオはジェペットじいさんの家まで何とかかんとか帰り着いたのです。


「おじいさん!」

「ピノッキオ!無事だったのか!」


 感動の再会です。


「おじいさん、僕はものすごい大儲けの方法を手に入れたんだ。」


 ピノッキオはそう言って、実演して見せました。ジェペットじいさんは感心して手を叩きます。


「ね、この木材を売って稼げば、楽して大儲けだよ。」

「いや、待て。その木でまた人形を作って、お前のような自律人形をたくさん拵える方が良かろう。」


 ジェペットじいさんはピノッキオの木材を使ってあやつり人形を作りました。ピノッキオの鼻材から作られているので、大分小型ですが、どうやらちゃんと動いたり喋ったりするようです。


「オハヨウ、オハヨウ」

「何だか、お前に比べると性能が落ちている気がするな。」

「うーん、そうだねえ。」


 ジェペットじいさんとピノッキオは首を傾げます。


「おい、ちび、試しにひとつ嘘をついてみなさい。」


 ジェペットじいさんが命令すると、ミニピノッキオは言いました。


「アレガソレ」


 まともな嘘になっていません。どうやら、嘘をつくだけの知能も無いようです。が、ミニピノッキオとしては嘘を言ったことになっているらしく、細い鼻がしゅるんと伸びました。


 ジェペットじいさんはその鼻を折り、さらに小さいマイクロピノッキオを拵えました。こちらも動きはしますが、きゃいきゃい騒ぐだけでもうまともには話せません。でも、

「踊ってごらん。」

などとジェペットじいさんが命令すると、すちゃらか、すちゃらか、それらしき動きをします。


「ははあ。おもちゃとして売るなら、これくらいの方が手ごろかもしれんな。」


 ジェペットじいさんはピノッキオの鼻からミニピノッキオを作り、ミニピオッキオの鼻からマイクロピノッキオを大量生産しました。ジェペットじいさんはもう老眼で、自分ではそんなにたくさん作れないのですが、ミニピノッキオとマイクロピノッキオに命令して作らせたのです。ネズミ算式に増やすことができました。


 こうしてできあがったマイクロピノッキオは大当たりし、各家庭どころか、各人に1個以上のペースで行き渡りました。


 ところが、ある日、町を大火が襲い、ピノッキオ達はあらかた燃えて無くなってしまいました。人々はとても悲しみましたが、やがて気付きました。仕事をしなければならないのについぼんやりしてしまったとき、普通なら仕事は何も進んでいないはずなのに、いつの間にか仕事が片付いているのです。


 そうです。皆の内側にあの小人さんが宿ったのです。


 こうして、ピノッキオたちは燃えて、魂となって、人々のために働き続けるようになりました。何しろちょいとポンコツなマイクロピノッキオですから、小人さんの仕事のクオリティには少々危うい面もあります。でも、現代人類のクソどうでもいい仕事の大半は、小人さんがちょっぴり間違えたところで大した問題はありません。こうして、人類は無益な長時間労働に耐えるための大事な相棒を手に入れることができましたとさ。めでたし、めでたし。

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