第12話 赤ずきん? その1
むかしむかし、あるところに、可愛らしい女の子がいました。お母さんに作ってもらった真っ赤な頭巾をかぶっていたので、赤ずきんと呼ばれていました。
「そんな目立つ色では、敵機に狙われるよ。」
お隣のおばさんが心配します。大きな国との戦争が始まってもう何年になるでしょうか。南の島を敵に占領されて以来、連日のように本土に空襲が来るようになっていました。
「だいじょうぶよ、すぐに防空壕に逃げるから。」
赤ずきんはそう言って、お気に入りの頭巾を撫でました。
ある日、赤ずきんはお母さんに頼まれて、おばあさんの家へお使いに行くことになりました。
「道草をしては、ダメよ。」
「はーい。」
お母さんに元気に返事をして、赤ずきんは大好きな頭巾をしっかりかぶって外に出ました。良いお天気の下ルンルンと赤ずきんは歩いて行きます。
真直ぐにおばあさんの家に向かっていた赤ずきんですが、途中で大きくてもふもふでオオカミみたいな、でも人懐っこい野良犬を見つけて、思わず追いかけました。そうして原っぱまで出てきて、野良犬を撫でたり、花を摘んだり、ついつい遊んでしまいます。
その時、赤ずきんの上空に飛行機がやってきました。敵機です。民間人の犠牲に対して何ら配慮をしない時代です。女子どもだって普通に撃たれます。赤ずきんはハッとして、辺りを見回しました。辺りは野原、防空壕も何もありません。赤ずきんは地面に身を投げ、伏せました。真っ赤な頭巾が上空を行く敵機からもよく見えます。
「HAHAHA! Are ha mou sindeiru. Atama ga chimamire da!」
赤ずきんは知る由もありませんが、敵機のパイロットがそんなことを喋っています。敵機はくるーりと旋回した後、何もせずに遠ざかって行きました。
エンジン音が聞こえなくなってしばらくしてから、赤ずきんは身を起こしました。どうやら助かったようです。赤ずきんはブルブルと震えました。とても怖かったのです。でも、おばあさんへのお遣いをやり遂げねばなりません。赤ずきんはとぼとぼとおばあさんの家に向かって歩き始めました。
しかし、何という事でしょう。おばあさんの家は、既に敵機に爆弾を落とされて、粉みじんになっていました。おばあさんは戦争というケダモノに丸飲みにされ、亡くなってしまったのです。煙を上げる家の前に立ち尽くし、赤ずきんは慟哭します。戦争の腹を掻っ捌いて中からおばあさんを助け出したいと思いましたが、そんなことは叶わぬ夢です。
その赤ずきんに、物陰から声が掛かりました。
「赤ずきんちゃんだね。おばあさんから、聞いているよ。」
おばあさんのお隣の人です。普段は畑仕事をしていますが、イノシシやシカを獲るのも上手なおじさんです。
「これを持って帰りなさい。今度君が来たら食べさせてあげるって、楽しみにしていたから。」
おじさんはそう言って、赤ずきんに猪のお肉を持たせてくれました。
赤ずきんはお肉を持って家に帰りました。おばあさんのことはとても悲しかったのですが、久しぶりのお肉はとても美味しくて、余計に涙が出ました。その夏、長い戦は終わりを迎え、やがて赤ずきんはずきんを脱いで暮らすようになりましたとさ。めでたし、めでたし。
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