第2話 隊長の死

 あれからシグナルに戻り、 タブレットで報告書を書く。

 今回の任務はいつも通りの討伐だったが、 足の折れた鬼は異例だったので動画付きで送る。

 警官時代は動画を送るなど、 なかったので、 便利になったなとしみじみと思う。


「足が折れてる鬼なんてそんな多くないんでしょ?」

「そうだ、 だから報告書に書いて統計を取る必要があるんだ」

「珍しい現象ではある」

「てか、お前ら自分の部屋に行けよ」


 俺の自室に三人のヌークが伸び伸びとしている。

 各自部屋は設けられているが、どうしてか寝る直前までここで過ごしている。


「僕、 ここの方が落ち着くんだもん」

「私もです~」


 晶はゲームをして、未来は絵を描いている。

 茜は変わらず読書だ。

 各々好きな事に集中している。

 俺も報告書が終わったら読書しようと決めている。


「ここに居れば出動も楽だもんな~」

「フラグ立てないでくださいよ~」


 するとタブレットから出動命令の音が鳴る。


「僕のせいじゃないからね!!」

「誰も責めていないわ」

「ほら、 行くぞ」


 俺らは特型警備車に乗り現地へ向かう。

 茜は読書、 晶はゲームを持参している。

 未来は暇そうに足をバタバタさせているいつもの光景だ。


「発生源は港区で十五体」

「多いですね」

「繁華街は鬼の発生には好条件ですもんね~」

「鬼に殺されたら鬼になるって惨いよね」


 鬼になる条件は鬼に殺されてしまうことだ。

 繁華街では鬼化の繁殖に拍車がかかる。


「第二部隊が先に着いて討伐している」

「その部隊確か、 新米の隊長だよね?」

「まだ二か月くらいだったはず」


 シグナルでは二か月持てば上等の世界だ。

 出動命令の多さや、 悲惨すぎる現場に離れていく人も多い。

 現に二番隊隊長だった人も家族の時間を大切にしたいと、 辞表を出して辞めていった。


「ヌークの武器の所持を許可します」


 茜たちは銃を手にして、 規制線まで行く。

 俺がいないとヌークでも入れない仕組みになっている。

 何の変哲もない雑居ビルが並ぶ殺風景な路地に規制線が張られている。


「シグナル本部 シママキ部隊長の入室を許可します」


 俺らは二番隊を探した。

 まずは状況確認が必要だ。

 タブレットでは鬼は十五体から動いていない。


「あ、 いた!」

「島根隊長、応援のシママキです」

「シママキ隊長!」

「現状を聞いてもいいですか?」

「十体の鬼を討伐完了しました」


 残り五体まで減らしたのは中々の成績だと思う。

 だが、 現状報告がないのは致命的だ。


「これからは現状報告も送ってくれたら最高だ」

「申し訳ございません!」

「第七部隊、第二部隊の代わりに前線に」

「了解」


 茜たちが前線に出ていく背中を見る。

 対峙する間際、 けたたましい音が響く。まるで黒板を爪で引っ掻いて出る音に似ている。

 雑居ビルの窓を割り、 ガラスの雨を降らす。


「何この音!!」


 音が止み前方に鬼が現れる。

 すると鬼が鬼を捕まえ食べ始めた。

 食われている鬼は必死にもがくが逃げれずに食べられ続けられる。


「鬼が......鬼を食べている......」


 あまりの衝撃的な光景に皆視線を外せないでいる。

 今までにない現象に俺は動悸がする。

 食べ終えた鬼はけたたましい音を出す。

 さっきのはこいつの鳴き声だったのかと耳を塞いで整理する。


「隊長!この鬼他のと比べて体が大きいです!」

「てか、 鬼を食べ始めてから大きくなったよ!?」

「皆、 落ち着いて対処!」


 今までにない現象に困惑するヌーク達を導くのが隊長の仕事だ。


「距離を取りつつ撃て!」

「了解!」


 茜たちが撃つがほとんどの弾が交わされる。

 当たっても致命的な傷にならず、凍り付いた箇所もすぐに溶ける。

 どんだけ体温が高いんだ......

 するとこちらに鬼が突進してくる。


「隊長!」


 俺は鬼の攻撃を避ける鬼の拳を払いのける。

 鬼の体温の高さで、 軽い火傷を負った。

 ハンドガンを構え鬼の目を撃つ。

 鬼は一瞬悶えだが、 すくに標的を島根隊長に変える。

 島根隊長は逃げようとするが、 すぐに捕まり首を掴まれる


「いやだ!死にたくない!いやだ!」


 喉を掴まれて声が出ていないが、 必死な声が響く。

 ヌーク達は鬼に向け撃つが動きを止めるまでには遅かった。

 鬼は島根隊長の顔に嚙みついた。

 ぶちぶちと皮を剥ぎ取る音が生々しく、 俺らの動きを止めるには十分だった。


「た......すけ......て」


 顔を食べられても生きている島根隊長。

 だが、 それも数秒後に首を折られ息絶えた島根隊長をアスファルトに投げ捨てた鬼。

 隊長を亡くした二番隊は呆然と立ち尽くしていた。


「この現場は第七部隊シママキが指揮を執る!」

「了解!」

「一か所に集中して撃ちこめ!」

「なら、 足を狙うしかないでしょ!」


 晶が愛用のサブマシンガンで、 先導する。

 六人のヌークが鬼の足を狙うが交わされる。

 晶が接近戦に持ち込み鬼の動きを抑制させる。

 すると銃弾が当たりやすくなったのか、 足が氷ついてくる。

 鬼が右足に重心を置いたとき、足が砕け散ってバランスを崩す。

 芯まで凍って体重を支え切れなかったのだろう。


「今だ!」

「よくも島根隊長を!」


 二番隊が鬼の頭に近距離で撃つ。

 完全に凍った頭を踏み潰す。


「鬼退治完了だ」

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―シグナル―鬼退治の時代になりまして 峰 葵 @mine_aoi_

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