―シグナル―鬼退治の時代になりまして

峰 葵

第1話 鬼退治

 三年前突然人が死ぬと鬼になる現象が起きた。


 最初は電車に飛び込んだ人身事故がきっかけで多く知られた。


 胴体と足を切断された女子中学生が鬼になったのだ。


 俺はその当時、 警察官をしていて、 その場に赴きこの目で見たときは唖然とした。


 半分に切断された上半身。赤くなった顔には角が二つあった。


 私らを食らおうとしているのか、 こちらに手を伸ばす鬼を政府は隔離して原因追及に勤しんだ。


 それも日に日に弱っていく鬼を何も出来ずに、 灰にしてしまった。


 それ以降鬼の出現が多くなり、 政府は鬼退治に特化した『シグナル』を創設した。


 シグナルではヌークという人型ロボットを作り、 俺たちに鬼退治の命令を下した。




「煙草控えるとか考えませんか?」




 自室で煙草片手にタブレットで報告書を読んでいた時、 茜に煙たがられた言葉を吐かれる。


 茜はヌークだが感情があるため、人型ロボットでも、コミュニケーションが取れる。


 彼女らは胸に核があり、 それを壊されない限り修理可能だ。




「茜にはわからないよ、 この美味しさは」


「わかりたくもないです」




 そう言って手に持っている小説に視線を戻す茜。


 この間教えたSF小説だ。


 するとタブレットから音が鳴る。


 出動命令だ。




「茜行くぞ」


「了解」




 俺たちは部屋を出て、特型警備車に向かう。


 まだ朝の十時なのに人工的な明かりで照らすのは地下にいるからだ。




「あとの二人には、 特型警備車に集合するように伝えた」


「わかりました」




 鬼退治する際に三人一組のスリーマンセルが基本としてある。


 俺はそれの隊長で、 三人のヌークと一緒に鬼退治をする。




「隊長遅いよ~ 僕ずっと待ってた~」


「シママキ隊長待ってました!」


「おう!準備万全にしとけよ」




 特型警備車で、晶と未来に合流する。


 この二人もヌークだ。




「僕の方が早いとか隊長失格~」


「そんな生き急ぐなって」




 晶からのからかいに柔軟に対応していく。


 もう二年も一緒にいるので、 慣れっこだ。


 俺たちは動き出した特型警備車で各々好きな事をしている。


 タブレットで現状情報の報告を読む。




「現時点で渋谷で五体の鬼が出没中」


「規制線は?」


「もう張られている」


「もう着きますよ~」




 特型警備車から下りて、車の横にある小さな扉に手をかざす。




「シグナル本部シママキ隊長を受理 ヌーク 武器の所持を認めます」




 するとドアが開き中からヌークが使う武器が出てくる。


 各自、 自分の武器を持ちセイフティを外す。




「僕ずっと会いたかったんだよ~」


「もう!晶さん気持ち悪いです!」


「ほら行くぞ」




 俺は電子型の警備線を張っている見守り型ロボットに手をかざす。




「シグナル本部所属、シママキ部隊長の入室を許可します」




 この規制線はシグナルで登録されている物しか通さない。


 民間人が規制線を越えると警告音が鳴るため、 部外者かどうか分かる仕組みになっている。




「第七部隊鬼退治するぞ」


「了解」




 目の前では三体の鬼が人間を食い散らかしていた。


 皮膚がぶちぶちと千切れる音と骨を砕く音が支配してた。


 あそこまで食われていたら鬼になってもすぐ灰化するだろう。




「雁行の陣を基本として退治する」


「了解」




 茜が一体の鬼を退治する。




「一体浄化」




 二匹の鬼が茜たちの方へ向く。


 走ってくる鬼を正確に頭を撃ちぬく未来ミク


 迎え撃つように背負い投げをして近距離で鬼を浄化する晶。


 三人の武器の弾には液体窒素が含まれており被曝すると凍り付く。


 シグナルの科学が生んだ産物だ。




「残り二体を探す」




 俺はタブレットを開き上空からドローンで撮影されている画面を開く。


 熱感知で辺りを捜索する。


 少し遠い所に二体いるのがわかった。




「この先三百メートル先に鬼が居る」


「徒歩で四分」


「行くしかないでしょう!」


「でも確認されてない鬼がいたらどうします~?」




 確かにそうだ。


 他の部隊の応援を呼んでからでもいいと思うが、 それまでに犠牲者が増えないとも限らない。


 だが、俺の仕事は鬼退治だ。




「行くぞ」


「了解」


「やっぱりそうでないと!」


「え~怖いですよ~」




 三人は俺を囲むように歩く。


 部隊長の死は部隊の死でもある。


 ヌーク達は戦闘時、 隊長の命令を聞いて動くようにプログラムされている。




「目標確認」


「素早く討伐するように」


「了解」




 鬼はこちらに気づき突進してくる。


 茜たちはトリガーを引く。


 一瞬で氷漬けになり、 晶が回し蹴りをした。


 凍った鬼の破片が太陽に照らされてキラキラと輝く。




「隊長! ここに鬼います~」




 でも様子が......と言う未来に引っ張られ鬼を見てみる。


 鬼は地べたに這いつくばっていた。


 だが、 こちらを襲おうと腕だけを伸ばして空を切る。


 良く見ると両足が折れ曲がっていて歩ける状態ではなかった。


 俺はすぐにタブレットを開いて動画を撮る。




「二千二十七年六月六日、 足の折れた鬼を発見」




 動画を撮り終えて、 鬼を自分の目で観察する。




「なんでこいつだけ?」


「分からないが、 何かあったんだろう」


「どうしますか?」


「ほっといても灰化するが、楽にさせよう」


「了解」




 茜が鬼に近づき、 銃口を鬼の頭に合わせる。


 重たくお腹に響く音が響く。


 鬼は灰化して跡形もなく消える。




「鬼退治完了」


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