第7話

「薔薇は来月には満開だろうね」


 静雄は霧吹きを持って薔薇園を出、蔓薔薇のアーチの下にそれを置くと、外に向かって歩き出した。わたしは彼を追う。


「どこに行くの?」


 わたしは早足のために息切れを起こしながら静雄に並ぶ。静雄はわたしを見下ろし、ヒト薔薇だよ、と言った。わたしは少しつまらなくなったが、それでも静雄の大きな歩幅に合わせて歩いた。静雄の家とわたしの家の庭の境目は曖昧だ。石畳があればわたしの家の庭だろうし、芝が生えていれば静雄の家の庭なのだろうが、そのどちらでもない部分の判断が難しい。でも、わたしも静雄も、互いの両親も、気にしていない。


 池は森のそばに作った。シロツメクサが繁っている場所だ。ぽつんと、小さな泉のように穴が開いている。透明な水がひたひたと風に揺れる。石造りの井戸のようだけれど、とても浅い。わたしが入れば、ふくらはぎまでの水かさしかないだろう。

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