第5話

薔薇は様々に伸びている。蔓薔薇は青銅のアーチに絡まり、色々な葉をつけた株が静雄の通る道だけを残して自由自在に膨らんでいる。夏と冬に剪定をするのだが、それでもこれほどに大きくなる。薔薇の命は一般的な木よりも短いが、だからこそあのような美しい花が咲くのだと、わたしは思う。


 ふと、静雄が薔薇を見つめながらのんびりとした声で、


「沙良にやっただろ、種」


 と言った。おっとりとした性格の静雄は、よく気の抜けた声で話す。わたしはぽかんとして、何のことだろうと考えた。静雄がわたしに向き直る。困ったように笑っている。


「ヒト薔薇の種だよ」


 わたしは思い出して、ああ、と声を出した。


 静雄から、ヒト薔薇の種をもらったのだ。薔薇好きの静雄がわたしに種を押しつけるのは珍しいが、水耕栽培用の池に入れておけば勝手に育つというので、冬に池を作ってそこに入れておいたのだった。今はどうなったのだろう。

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