一、大風呂敷

第75話

「話が違います、私には既に許婚が」


京の御所、皇女である凰稀は声を荒げていた。


朝廷と幕府の友好のためだとかで、政略結婚の白羽の矢が立てられた。


幼い頃からの許婚との婚儀が、具体的になってきた矢先の話であった。


「相手が将軍さんとはいえ、江戸へ下るなど絶対に嫌じゃ」


江戸の政権が危ういこと。

倒幕を進める勢力を抑える為の「公武合体」を推し進める幕府の動きを、聞いてはいた。


が、所詮自分には関係のないこと。

幼い頃から親しくしてきた許婚の元に嫁ぎ、これまで通りに暮らす。

何も憂う必要などないはずだった。


武家に嫁ぐなど、考えられない。

自分は皇女なのだ。


江戸からの遣いが頻繁に訪れ、自分の処遇が決められていく。


凰稀は数人の侍女と自室に籠もり、お上に抗議の意を示していた。


侍女達も、凰稀への横暴を涙ながらに訴える。


お上と呼ばれる帝である兄も、度重なる幕府からの圧力の板挟みにあった。


拒絶を貫く凰稀の胸の内を思い、辛い立場ながらに幕府との交渉を続けていた。


凰稀は、粗暴な武家の男に嫁ぐ位なら、死んだ方がましだと思っていた。

が、帝がまだ幼い一人娘を差し出そうと考えている事を知り、胸を衝かれた。


交渉が決裂すれば退位も覚悟の上との帝の考えに折れ、凰稀は泣く泣く輿入れを承知した・・・

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