美奈子と裕介

第8話

 志田裕介は妻の美奈子をベッドの中で抱きしめていた。


「ごめん、今日も無理だった」


「ううん。私だけ気持ち良くなってごめんね」


 たっぷりのキスと愛撫。

 裕介は美奈子の身体を存分に愛してくれる。

 挿入前までは。


「最近仕事も大変になってさ。って言い訳だね。美奈子、子供も欲しいよね。もう少し仕事落ち着けば大丈夫だと思うから、もう少しだけ待ってね」


 裕介は小学校の教師だった。

 子供たちの問題だけでなく、保護者との問題、同じ教師達との問題で、毎日神経をすり減らしていた。

 真面目で実直。

 時間がある時は家事も手伝ってくれる。

 優しくて、子供達にも人気のある先生。

 甘いマスクの容姿から、保護者からも人気がある。

 100点満点の出来た夫。

 その裕介が、美奈子を抱けなくなったのは1年ほど前からだった。

 その時はまだ、裕介が勃起しないのも一過性のものだと思っていた。

 いずれ時間が出来れば、また愛しあえると信じていた。

 それからしばらくして、裕介の同僚が精神的に病んで教師を辞めてしまった。

 裕介の仕事も負担が増えていった。


「大丈夫よ。今は仕事を優先して。家にいる時はリラックスできるように私も気をつけるわ」


「ありがとう。愛してるよ、美奈子」


 それが今では、同じベッドでキスをする事はあっても、愛撫を受けることは全くなくなり、完全にセックスレスになっていった。

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