第5話

 千秋と美紅が付き合い始めて3ヶ月が経った。

 美紅は仕事とプライベートをしっかり分けて、千秋との仕事も付き合う前以上に成果を上げていた。

 千秋と付き合い始めたことで、仕事の効率が落ちたと言われるのが嫌だったからだ。

 そんな美紅の頑張る姿に、千秋は益々美紅への愛おしさが増していた。


「美紅、クリスマス、どっか旅行に行かないか?」


 いつものように千秋の部屋に来ている美紅に尋ねる。

 今は10月。

 クリスマスの予定を立てるのも、ちょうど良い時期だと美紅も思った。


「行きたい!千秋さんと旅行行きたい!どこにする?北の方の温泉とか行ってホワイトクリスマスも良いよね!」


 嬉しくてはしゃぐ美紅を見て、千秋は美紅の左手を握る。


「千秋さん?」


 千秋は握った美紅の指先を唇に当てた。

 美紅はドキドキしながら千秋の顔を見つめる。


「散々悩んだけど、やっぱり今日言わせて」


「…………え?」


 何を言われるのか分からず美紅は固まる。


「どうしたの?」


「本当は、クリスマスまで我慢しようとしたんだけど、無理」


 どうしたのか分からず、美紅は大人しく黙ったまま。


「美紅。俺と結婚して」


 あまりにもシンプルなプロポーズに、美紅は聞き間違いかと目を見開く。


「美紅、目、見開きすぎ。元々目がおっきいんだから、落っこちるぞ」


 千秋のそんな冗談も頭に入ってこない。


「婚約指輪、一緒に買いに行ってくれる?用意しようと思ったけど、一生物だから、美紅に好きなの選んで貰いたいんだ」


 美紅の大きな瞳から、ポロポロと涙が溢れる。


「美紅」


 千秋は照れ笑いをする。


「びっくりしたのッ!びっくりしたー!びっくり……………」


 わぁんと美紅は泣く。

 嬉しすぎて涙が止まらない。

 千秋の腕の中で美紅はしばらく泣いた。


「…………クリスマスまで我慢できなかった。1日でも早く言いたかった。クリスマスには、婚約指輪してる美紅と旅行に行きたかったから。ごめん、なんでもない日に、しかも俺の部屋とかムードも無かったよな」


 千秋の腕の中で美紅は思いっきり首を振る。


「なんでもない日じゃない!千秋さんがプロポーズしてくれた日だもん!私にとって記念日が増えたもん!場所なんて関係ないもん!」


 美紅が可愛すぎて、千秋はもう顔が緩みっぱなしになる。


「あ、あれ?俺、返事貰ったっけ?」


 盛り上がりすぎて、美紅からちゃんと返事を貰ってないことを千秋は気付く。


「あ、そうだッ!してないッ!」


 慌てる美紅に千秋は微笑む。


「結婚しよう、美紅。美紅を一生大切にする。ずっと俺のそばに居て欲しい」


「はい。千秋さんのそばに一生います」


 泣き笑いの美紅から返事を貰って笑顔になる千秋。

 絶対に幸せな家庭を築くと美紅に誓った。

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