第3話

 千秋と美紅は仕事の接点から、退勤後に飲みにいく機会も増えていた。

 お互いに今は恋人もいなかったので、誰に気を使うこともなかった。


「原田はさ、ずっと営業やりたいのか?俺はどっちかって言うと、お前は商品開発とか、企画の方が向いてると思うんだけどな」


 千秋の言葉に美紅は少しだけショックだった。

 どんなに頑張っても、千秋に認められていなかったんだとシュンとなる。


「私、営業向きじゃないですか?西川さんのサポートできてないですか?交渉ももっと頑張ります!得意先周りももっと増やします!だからッ!」


 そばに居させて欲しいと心の中で叫んだ。


「違うよ。あまり一生懸命仕事されると、俺が辛くなる」


「…………え?」


 千秋は顔を美紅から背けた。


「俺、お前のこと、可愛いって思ってる。だから、企画力とかお前の頑張りを見てると、そっちの方が合ってるって思って」


 可愛いと言われて美紅はドキッとしたが、ちゃんと自分の仕事を見てくれていたんだと嬉しくなる。

 千秋への憧れが益々強くなる。


「ちゃんと私を見ててくれて嬉しいです。確かに、企画の仕事とか好きです。西川さんと一緒に色々考えてプレゼンして、それで結果が出ると本当に達成感もあります。だから、西川さんの下でこれからも頑張りたいんです」


 真っ直ぐな目で美紅は千秋を見る。

 千秋は恥ずかしくなって俯く。


「ったく。そう言うの、ヤバいから」


「はい?」


「…………めっちゃ悔しい」


「ええ?」


 悔しいと言われて美紅は慌てる。

 自分が何かしでかしたと不安になる。


「すみません!私、西川さんが嫌がることしましたか?ごめんなさい!」


 焦る美紅に千秋はフッとため息をついた。


「違う!こんなにお前が気になるのが悔しいの!あー!もうッ!」


 照れ隠しで千秋はそっぽを向いたまま。

 美紅はびっくりして千秋を見つめる。


「あ、あのッ!それ、それって!」


「本当は、今夜は仕事の話するつもりなかったの。お前にどうやってコクれば良いか分からなくて」


 千秋の告白に美紅は頭が真っ白になる。

 憧れていた千秋に、好意を持ってもらえていたことが信じられない。


「俺と、付き合ってくれる?」


 アルコールのせいではないと分かるほど、真っ赤になって千秋は言う。

 恥ずかしくて、好きという言葉は吹っ飛ばした。


「あのッ!」


 焦る美紅。


「頼むよ。早く返事してよ。俺、こんなに恥ずかしくなるほど好きになった奴、お前が初めてなんだから」


 肘を付いて手で顔を隠しながら千秋は言う。

 耳まで赤くて、可愛いと美紅は思いながらドキドキが止まらない。

 まさか憧れの先輩から、付き合って欲しいと言われるとは思っていなかった。


「あ、は、はいッ!よ、よろしく、よろしくお願いします」


 美紅も真っ赤になると恥ずかしくて俯く。

 二人はしばらく目を合わせられなくなった。

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