　千秋と美紅の出会いは、同じ部署の先輩後輩の関係から始まった。

　千秋は若手の時から営業部のエースとして、常に上位の成績を維持していた。

　仕事ができるだけでなく容姿も申し分なく、同じ部署の女子の間では一番人気の人物だった。

「西川、今日から原田さんをお前のアシスタントにするから。原田さん、西川をよろしく頼むよ」

　美紅の旧姓は原田だった。

　新入社員の研修後に営業部に配属されて、美紅は雑務に追われながらも持ち前の明るさと、仕事に対する前向きな姿勢は部長からも評価されていた。

　そして今回、憧れの千秋のアシスタントに大抜擢されたのだった。

「女子でアシスタントなんて、原田はだいぶ期待されてんな」

　同期の亘理龍彦が美紅に言う。

「やっとだよ！早く亘理君みたいにもっと仕事で認められたいよ」

　美紅が鼻息荒く言うと龍彦は笑う。

「ま、俺みたいには無理だと思うが、でもそのうち俺より上に行ったりな」

「えへへ。そうかもよ」

　軽口が叩ける存在の仲間が近くにいてくれるお陰で、女子が少ない大変な仕事でも美紅は乗り切れていた。

　そして営業部きっての、最有望株の千秋のアシスタントになれたのは本当に夢のようだった。

　ただ、喜んでばかりはいられない。現実は厳しい。

「原田！見積さっさと出しとけよ！」

　千秋が美紅を急き立てる。

「はい！１５時までに出します！」

　千秋の美紅に対する態度は、側から見てもかなりのスパルタに見えた。

　それでも美紅は、千秋に認められたい一心で仕事を頑張る。

　憧れの先輩にもっと近づきたいと思った。

「お前って、頑張り屋だよな。今回の企画も手伝ってくれてサンキューな」

　大きな仕事を達成した時、やっと千秋の視界に入れたと美紅は思った。

「これからも、ずっとサポートしたいです！西川さんの力になりたいです！」

　素直な美紅に、千秋が好感を持ったのもこの頃だった。

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