私のお嬢様

水生凜/椎名きさ

Scarlet

第1話

side:Scarlet



「この役立たずが!」


侯爵令嬢であるスカーレットは、夜会から帰宅すると、父は開口一番に実の娘を罵り、彼女の薔薇色の頬を平手でぶった。


何故なら、この国の王太子アリスターの婚約者に選ばれなかったからだ。

選ばれたのは公爵令嬢のオフィーリアであった。

才色兼備であることは勿論。ノブレス・オブリージュを信条とし、積極的に慈善活動を行っていた。オフィーリアほど、未来の国母に相応しい女性はいない。


ちなみに選ばれたオフィーリアは王家主催の夜会に出席しておらず、戦地で看護婦として働いていた。


スカーレットは数時間前までは、アリスターの婚約者候補の一人であった。




「お父様、申し訳ございません……」


スカーレットは、赤く腫れた頬を押さえながら、父に深く頭を下げて謝罪を述べるが、父の怒りは一向に収まる気配を見せない。


(わたくしも、頑張りましたのよ)


虐待じみた教育を受けながらも、両親の期待に応えるために。

ダンス、マナー、政治はもちろんのこと、この国は医療の発展に力を入れている為、大学に進学し、医学や薬学も学んでいる。


しかし、スカーレットが選ばれることはないと自覚したのはもっと前のことだった。

お茶会や舞踏会で、アリスターと言葉を交わすことはあったが、スカーレットに向ける眼差しは興味がないと物語っているのだ。それは他の候補者の令嬢にも言えることだった。


ただ、オフィーリアだけは違っていた。

彼女を見つめるアリスターの瞳は、熱がこもっており、砂糖菓子のような甘さが孕んでいたのだ。

仮にオフィーリアが下位貴族の令嬢か平民の娘だったとしても、アリスターは彼女を選んだことだろう。


「リチャード、コレを地下へ」


父は顎で実の娘を指すと、執事のリチャードはスカーレットを肩に担ぎ出した。


「お父様! ごめんなさい! 許してください!」


令嬢が声を張り上げることははしたないと知りながらも、スカーレットは叫ぶように父に許しを乞う。


「貴様は、駒の価値すらない。放逐しないだけありがたいと思え」


父は酷薄で残忍な笑みを浮かべた。


スカーレットは、屋敷の地下牢に幽閉された。

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