酒田青

第1話

雨が降り続いていた。触れたいとも思わない十二月の冷たい雨は、一つ一つが糸のように長い。地面に落ちては通行人の足に跳ねかかり、まとわりつくように靴を濡らす。この街では十二月に雪が降ることは稀だ。雨粒が手にかかる。肌を刺すような痛みは、おれに雪の柔らかさへの憧れを抱かせる。おれは雨が嫌いだった。


「バスで来た。迎えに来て」


 電話口で、きりりとした声の千歳(ちとせ)は言った。おれは説明をしようかしばし迷ったのだが、とりあえず千歳を雨から救うのが先だと二つ返事で家を出たのだった。羽織ったのは千歳の一番嫌いなジャンパーだ。灰色で、上半身がむやみに膨らむ。このジャンパーが一番温かいので、おれは仕事着にしている。出勤時はいつもこれだ。気づいたときに戻ろうとしたのだが、急にどうでもよくなって雨傘をひっ掴んで家を飛び出したのだ。

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