第42話
最初の狩り場はミツメウサギが一匹か二匹しか出ない場所だったので、彼らはぎこちない動きをしながら狩りを続けた。
ジェシカは緊張しながら杖を構えた。
「火、ウサギ、ファイア!」
「うわー」
ギドが横に逃げて、ジェシカの放った火の玉がウサギを捕らえて丸焼きにする。
グレッグはウサギを拾って腰のマジカバンに収納しながら「ギド、余計な声を出すな。特に悲鳴に似た声は魔物が聞き分けるから危険だぞ」と注意する。
「魔物ってそんなに賢かったっけ? うわっと」
素早く回り込んだウサギに体当たりをされそうになったギドは、棍棒で迎撃して見事に倒した。
「本当だ、狙われたわー」
「弱いからといって侮るなよ。特にミツメ系の魔物はロックオンのスキルを持っているから、一度獲物に認定するとしつこくて、群れで襲いかかってくることもある。情報を共有しているのではないかと思われる行動も見られるから、注意しろ。護衛の依頼を受ける時には、依頼主に悲鳴をあげたり叫んだりしないように、あらかじめ注意をしておくように」
「はい!」
「まあ、この習性を利用してわざと悲鳴をあげて囮になる、という戦法もあるから覚えておけ」
「はい!」
「ちなみに盾役になって魔物を引きつける時には、キャーなんて悲鳴をあげると味方の戦意が低下するからな、勇猛な
グレッグの冗談に、子どもたちはくすくす笑った。
現役の冒険者から少しでも技能を吸収しようと、子どもたちは皆、真剣な
棍棒で頭を砕かれたウサギを拾ったグレッグは「ほら、ギドを狙って群れが寄ってきた。魔物は容赦ないからな」と彼らの後ろを指差した。
「変な声を出したから、ギドが弱虫だと認定されたな」
マーキーが笑って「片手剣、行くぞ!」と声を出した。
「ウサギに舐められるとか、腹立つなー、くっそー、棍棒行くぜー」
「槍、行くよ」
群れと言っても三匹だったので、前衛の三人が危なげなく倒す。
「今日から俺は無口な男になる」
ギドがクールに呟いた。
「まだ余裕があるから奥へ進むぞ」
「はい!」
一行はさらに十分ほど歩き、魔物が多く生息する場所にやって来た。この辺りは初心者向けの狩場らしくて、他にも数組のパーティが見られた。
中にはカタコブイノシシと戦っているパーティもあり、トーリは「うわあ、イノシシってあんなに大きかったんですか!」と驚きの声をあげた。子牛くらいのサイズだったからだ。
「あれはいいイノシシだな。ちょうど食べ頃だからいい値段で売れるぞ」
グレッグはニヤリと笑った。
「せっかくだから、後で土産に狩って帰ろうな」
「ええっ、僕たちで狩るんですか?」
「当たり前だ。五人もいるんだから、落ち着いて連携すれば大丈夫だが……」
連携をミスれば大丈夫じゃないことに子どもたちは気づき、その後の訓練を必死に行うのであった。
「トーリ、何匹の群れかわかるか?」
弓を使って獲物を狩るエルフの特性で、トーリは感知能力に優れている。森の中で自分の気配を消し、遠距離から矢を放って狩りをするのが彼らのやり方だ。
トーリも他の四人より敏感に魔物を察知したので「斥候としての能力を伸ばすのもアリだ」と、グレッグは初歩的なことを教えた。
「ええと……ウサギではなさそう、かな。ネズミですね。カマネズミが六匹くらい、です。一ヶ所に集まっていて、まだこっちには気がついていません」
ネズミと言っても、カマネズミはウサギよりもひとまわり大きな身体をしていて、前脚には鎌状の固い突起が付いている。体当たりが主体のウサギよりも強い魔物だ。
「そうだな、ネズミは気がついたらすぐに動く。では、基本的な動きでやってみろ」
五人は頷くと、前後に分かれて位置取りをした。そのままネズミに近づいて、弓と魔法の射程距離に入った。
「僕は右」
「わたしは左」
トーリとジェシカは頷き合ってから戦闘を開始した。
「右のネズミ、弓!」
「左のネズミ、火! ファイア!」
魔力の矢と火の玉が同時に飛び、ネズミを攻撃した。二匹が倒れ、残ったネズミが子どもたちに気づいて向かってきた。
片手剣、棍棒、槍がネズミの鎌攻撃をうまく避けて、それぞれ一匹ずつネズミを仕留めたが、まだ二匹残っていて後衛の方に向かって駆けてきた。
「二匹とも任せて!」
トーリはすでに弓をナイフに持ち替えていた。
彼はジェシカを庇うようにして前に出ると、連続でネズミを切り裂いた。
ジェシカも討ち漏らしに備えて杖を構えていたが、ネズミは一撃で倒れたようだ。
「ありがとうね、トーリ」
「ううん。これで全部?」
「おう。やるなあ、トーリ」
「ネズミくらいなら、前衛でも充分いけるな」
「ごめん、七匹だったね」
「気にすんなー」
「魔石取ろうぜ」
遠距離攻撃ができるジェシカが周りを警戒し、男の子四人でネズミの胸を切り裂いて魔石を取り出した。
魔物は魔石を取ると、身体が急速に風化して塵と化してしまう。そのため肉や骨などを使いたい場合は魔石を取らずに解体する必要がある。解体して分けてしまえば、そのままの状態になるのだ
野外で解体すると魔物が寄ってくるため、大抵の冒険者はマジカバンに丸ごとしまって、買取り所で解体してもらうことが多い。
ちなみに、ネズミは肉も骨も食用に向かないので、魔石を取り出したら放置する。七匹のネズミはあっという間に身体が崩れて風にさらわれた。
午前中に何度も狩りを繰り返して、連携をとる動きもよくなってきた。
「よし、そろそろ昼飯にするか」
グレッグが声をかけると、子どもたちは「やったー」「お腹が空いたよ」と喜んだ。
「おいおい、辺りの警戒は忘れるなよ」
グレッグは「昼飯を食う前に自分が食われたら洒落にならんからな」と言いながら、小高い丘へ足を向けた。
「この草原で野営をすることはないが、今日は野外料理のやり方を教えておく。いろいろと準備が必要だから、忘れ物がないようにな」
「教官、こんなに見晴らしがいいと危険じゃないですか?」
ジェシカは杖を構えて経過しながら尋ねた。
「そうだな。だが、遮蔽物がないから魔物が近寄ってきたらすぐにわかる。で、こういう時には魔物除けの薬玉か結界の魔導具を使うんだ」
グレッグは腰のマジカバンから薬玉を取り出して見せた。
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