僕が神じゃ悪い訳?SS集

遥哉

繰り返していく過ち――ディア

 人族も魔族も結局本質は同じなのだと、彼女は言っていた。その時の俺はまだガキで、意味なんてろくに理解していなかったが、彼女の寂しげな表情がとても印象的だった。

 あの頃の彼女と同じ立場の今の俺には、その言葉の意味がなんとなく分かってきた気がする。

 でも、それでも俺には、彼女と同じ選択は出来ない。

 和平を望んだ無抵抗の彼女を蹂躙した人族共も、無関係な少年を殺めた勇者も、俺には赦せそうにない。

 窓の外を眺めながらそんなことを考えていたら、俺の自室の扉がノックもなしに開かれた。ズカズカと無遠慮に部屋へ入ってきたのは、腐れ縁のラルヒ。相変わらずぽやぽやした締まりのない表情をしている。

「やっほー、ディーくーん」

「誰がディーくんだ、誰が! 魔王様だぞ、敬え」

「いひゃい、いひゃい! ごふぇん!」

 呼び方にムカついたから頬を思い切り抓ってやった。

 武装した人族が集まってきているという街の偵察に行かせていたはずだが、帰ってきていたのか。怪我をしている様子は、ないな。

「懲りないな、お前も。で? どうだった」

「やっぱり報告通りだったよ。しかも、こっちにちょっかい出すつもりみたいだね、あれは。一応、全員眠らせてきた」

「そうか、ご苦労。後は俺がやる」

 今現在、世界的に魔王の脅威はほぼないとされている。魔王は姿を消し、魔族も数を減らし、魔物は弱体化していると噂されるほどだ。

 だが、それは違う。こうして俺は存在するし、魔族の数も僅かながら増えている。魔物の弱体化は、恐らく俺が瘴気を取り込んでいるせいだろう。魔物が弱体化した分、魔王が強化されているとも知らず、呑気なものだ。

 そんな平和な世の中だ。今日の様に図に乗った輩が魔王城を墜とそうなどと画策することも間々ある。腐肉に集る羽虫に過ぎない者どもを、こうして魔王自ら屠ってやろうというのだから、俺も慈悲深い。

「結構腕の立つ奴らも混ざってたけど、本当に一人で大丈夫?」

 心配そうなラルヒの額を中指で強めに弾く。心配は無用。その辺の雑魚がいくら集おうと、容易に負ける俺ではない。

 痛がるラルヒを捨て置いて、部屋を出た。 己の譲れないものを守りきるためなら、俺はなんだってする。それが己を蝕む毒であると知っていても、目的の為ならば躊躇なく手を伸ばそう。繰り返していく過ちの連鎖にも、身を投じよう。

 だから早く。早く。

 俺を殺しに来いよ、勇者。



――

―――

13代目魔王ディアとその幼馴染ラルヒ。本編開始前の魔王サイドのお話でした。

Twitterでタイトルを頂いて書きました。

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