第一章 過去の足枷
葵side
ベッドから上半身を起こせば無音の部屋の中一つ、掛け時計の音が鳴り響く。
窓に目を向ければまだ真っ暗で、目覚まし時計に目を向ければ針は2時前を指していた。
いつもの事とはぁとため息をついた。
ベッドから降りてパジャマから黒いキャミワンピに着替え、黒い薄い夏用の上着を羽織る。
それから少しの支度をして外へ出る。
無機質に冷たいアパートのドアの外からは真夜中の海風が流れ込んできて少し涼しくて寂しい気がした。
アパートからは海まで歩きで30分くらい。
いつも通り悪夢を見た日は決まって海へ行く。
そこでなら忘れられる気がするから。
一つの小さな街灯の下にベンチがポツンと置いてあってそこにいつも座る。海の音が悲しい鳴き声のようで私は目を閉じる。
重なる。あの日と。
目を開けて海に目を向ければ真っ暗闇。普通の人は飛び込めば死ねるのかもしれない。でも私には意味をなさない。
過去を忘れられる気がするのは海が洗い流してくれる様な気がするから。
でも忘れちゃいけない。あの地獄の日々は絶対に。
「はは」
顔を少し伏せ自傷気味に笑う私はさぞ滑稽だろうな。
ノイズが入る様に手の平に血が付いている幻覚が見える。ぎゅっと拳を握ってそして力が抜けた様に開いて目をまた海に向ける。
もう幻覚はないけれど血の味を知るこの手は現実にある。
ぼーとしているとバリトンボイスの声が頭上から聞こえた。
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