第34話

鶴田という男性


店に入ってきたときから彼は真剣だ

女性しか足を踏み入れない靴のお店に

男性はひとりで乗り込んできたのだから


彼は何者かすぐにわかった

あの頃家に来ていた黒い人たちと同じ目をしていたからだ


予想通り

彼は名刺を差し出してきた

“西村プロダクション”

黒い人たちのなかでも

一番熱心に芸能の道へと誘ってくれた事務所だった


あのときの母は困りながらも嬉しそうだったのを思い出した

丁寧な挨拶

心のこもったお手紙

そしてあの西村社長直々に

都心から離れた田舎町に挨拶にみえたのだから


“女優にします”

“モデルにします”


そんな安易なスカウトの言葉ではなく


彼は

“立派な大人にします”

“お嬢様は可能性に満ちた方です”


そう言ってくれたのを覚えている

今になっては顔も思い出せないが

ただただ紳士だったことを覚えている







鶴田はなぜ私の元にやってきたのだろう

日本を離れて早6年

正直辛かったこともあった

17歳で日本の施設を回っていた養父母の目に留まり日本と海外で恵まれ贅沢な暮らし、教育をしてもらった

なにか恩返しを…その思いで生きてきた



その結果、今の働き方、人生だと思った









明日私は彼に会う

大事な話とはなんだろう



今夜はあまり寝れそうにない

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