第47話

「鏡さんよ。あんたに用はない」


ドスの効いた低い声に、騒々しい店内が一瞬静まり返る。


「しかしまぁ、早織によう似てる」


ニヤニヤと嘲笑いながら、舐め回すように見られ、思わず目をそむけた。


「早織のダンナが、上納金をネコババしたまま、逮捕され、こっちは、えらい損害を被った

んや。身内が代わりに返すのが筋っていうもんやろ⁉違うか⁉」


「ナオは、槙家の人間ーー早織さんとは、なんの関わりもない。弟だったのは、五年も前の事。警察を呼ばれる前に、どうぞ、お引き取り下さい」


鏡さん、僕の前に立ち塞がり、臆する事なく男たちと対峙していた。


僕なんか、怖くて、ガタガタと手足が震えてたのに。


鏡さん、やっぱり、すごい。


「男嫁だっけ⁉笑わせてくれる。マスコミに流したら、いい金になりそうや。世襲議員の名家である、槙家が聞いて呆れる」


ゲラゲラと、男が下品に笑い出した。


「もう、そのくらいにしておけ、配島」


川木さんの声が後ろから聞こえてきて、びっくりした。なんで、ここに⁉


「家を出てからずっと、ナオを遠巻きに見守っていたんだ、川木は」


鏡さん、呆れ顔で教えてくれた。


「えぇ‼」


本当に、全然、気が付かなかった。

彼に教えて貰わなかったら、知らないままだったかも。


川木さんは、僕の横を通り、男の許にゆっくりと近付いて行った。


「いくらお前でも、鏡には敵わない」


男の肩に手を置き、ポンポンと二回、軽く叩いた。


「だれかと思ったら、川木か」


「配島、その金は、もともとオレオレ詐偽で騙し取った金だろう。あまり、目立つように騒がない方がいいんじゃないか⁉」


川木さんは、脅すかのように、男を睨み付けた。


その物言わね迫力に、敵わないと判断したのか、男たちは、そそくさと退散していった。


「怖かった・・・」


安心したら力が抜け、その場にへたり込んでしまった。


「大丈夫かぁ⁉」


川木さんが、体を支え起こしてくれた。


「ありがとうございます‼」


いっぱい頭を下げると、


「一回でいいんだ」


って、顔を赤くして、苦笑いしていた。

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