第40話

お昼前まで布団の上でゴロゴロして、川木さんが来る前にシャワーを浴びよう、とお風呂場に行こうとしたら、


ピピピーー‼


固定電話の内線が鳴り、受話器を取ると、下の事務所の女性スタッフからだった。


『ナオさん、今、お昼のお弁当をお持ちします』


「はい、ありがとうございます」


受話器を戻し、一分もかからず呼び鈴がなった。恐る恐る、玄関のドアを少し開け、外を覗き込むと、若い女性がレジ袋を手に立っていた。


「初めまして。庶務の伴と申します」


「皆木ナオです。宜しくお願いします」


彼女からお弁当を受け取り、何気に回りを見渡すと、パトロール中の数人の警備員さんの姿が見えた。階段の下にも、私服の二人の警備員さん。


「これだけじゃないのよ、外にも、警備員が何人も立ってるわ」


「そうなんですか」


「橘内さんは、ここまで厳重にしなくても・・・って、言ったみたい。でも、鏡さんが、『槙家の大事な嫁』だからって言って・・・。ナオさん、極力外出は控えて下さい。もし、買い物に行くときは、事務所に声を掛け、必ず、下の二人を同伴して下さい」


伴さんの言葉に耳を疑った。

今、確かに、『槙家の大事な嫁』って・・・。

僕の聞き間違い⁉


「鏡さん、きっと恥ずかしいのかも。こんな可愛らしい方が、槙先生のお嫁さんだから。変なところでプライドが高くて、面と向かっては、言えないんだと思いますよ。事務所では、ナオさんの事、槙先生の奥様と呼んでますよ」


恥ずかしいから、普通に呼んでよ。

お願いだから。

でも、そう言って貰えるなんて、なんか、嬉しいかも・・・。

にわかには信じられないけど。

だって、いっつも怖い顔をして、厳しい、あの鏡さんが。


「何かあったら、すぐ、連絡下さい」


軽く頭を下げると、伴さんは、事務所へと戻っていった。


こんな僕を、一樹さんのお嫁さんとして認めてくれてありがとう。ちゃんと、感謝しないと。


ドアを閉め、レジ袋をテーブルに置いて、今度こそ、お風呂場に行こうとしたら、また、内線が鳴った。

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