薬狩り
第30話
5月に入り、
男性は鹿を狩り、女性は薬草を採取しに行くのだ。
この時代
今日はその前日で、稚沙も薬草採取の者に加わっての参加であった。
「炊屋姫様たっての薬狩りですもんね」
(確か
ちなみに稚沙の父親と比羅夫が従兄弟同士という間柄である。
「私達一族は馬飼部として、日頃馬の飼育に当たってるけど、それも叔父様が額田部を背負って頑張って下さってるからに他ならない。もちろん本筋である平群が、大和で
稚沙のいる額田部は、平群氏から発生した一族である。
過去に遡れば、
また、駒宿禰が馬を養育したところが生駒の地域だったともいわれている。
「明日の薬狩りがどうか怪我人もなく、無事に終わると良いのだけど」
そんな事を考えならいると、稚沙の目の前を2人の子供らしき少年が歩いていた。
(あ、あれは境部摩理勢の息子達だわ)
稚沙は彼の息子2人を見て、一瞬「ゾー」とした。
ひとまず彼らに見つからないように、ささっと回廊の柱の後に回って隠れる。
(自分よりも若い子相手に隠れるなんて、何んとも情けない…でも己の身が大事ね、ここは仕方ないわ)
稚沙が2人の少年が早くどこかに行ってくれないかと、声を潜めていた時である。
思いの外、彼らの会話が聞こえてきた。
「あぁ~馬子親子がいなかったら、父様が蘇我の最有力者になれてたのにな」
「まぁ、馬子の叔父上がいないと今の蘇我はないから、叔父上の次は誰が蘇我の中心になるかの方が問題だろ?」
どうやら、彼らもそれなりに自身の父親の影響を受けているようだ。
というより、日頃からそんな話を父親もしくは他の誰かから耳聞きしているのかもしれない。
「となると蝦夷が何か問題でも起こして失速しないかな」
(確か椋毘登の話では、兄の
稚沙も自分よりも年下の彼らの会話には驚かされてしまう。これが蘇我という一族なのだろうか。
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