甘樫丘
第25話
「私は、ここの仏像が気になって見に来ただけなので、ここで失礼させて頂きます」
「あぁ、
「はい、必ずや。また近いうちに
稚沙はそんな鞍作止利のうしろ姿を見届けると、ふととなりの厩戸皇子に声をかける。
「厩戸皇子、止利殿は本当にどうするんでしょうね」
「まぁ彼が出来るといっているんだ、きっと上手くことをおさめるつもりなんだろう。それに飛鳥寺の時はここよりもさらに大きな仏像だった。それも彼はやってのけたよ」
「そうですか。では、ここはあの方を信じるほかないですね」
稚沙も腕に抱いている雪丸の頭を軽くなでながら、皇子にそう答える。
また雪丸の方も、だいぶ稚沙に慣れてきたようで、気持ち良さそうにしながら彼女に身を任せている。
(どうかこの仏像の製作が上手くいくことを祈るばかりだわ)
「じゃあ、そろそろここを立つとしようか」
「はい、そうですね。厩戸皇子まだ他に行く所があるんですか?」
「うーんそうだね。じゃあ帰りに
「もうまぁ、それは良い考えですね。私も是非行ってみたいです!」
甘樫丘は、飛鳥寺付近にある小盆地よりも西側にある小高い丘で、そこからは飛鳥一帯を一望することができた。
稚沙もそんな厩戸皇子の思いがけない提案に大賛成した。本来なら
だが今は雪丸もいることだし、折角の機会である。なので椋毘登にはまた別の機会に連れていってもらうとしよう。
ここから甘樫丘までは、馬ならそこまで時間のかかるものでもない。
厩戸皇子は、稚沙と雪丸を馬に乗せてから、勢い良く馬を走らせた。
飛鳥川は、東南や南側から北西に向かって盆地内を流れ下っている。そして川の水は農作用水としての役割も非常に大きく、この辺りに住む人々にとっては無くてはならないものだ。それぐらいこの川から受ける恩恵はとても大きい
だがその反面では、この地域は平時は渇水のため干害を招きやすく、降雨時は出水が激しく度々水害もおこしていた。
そして甘樫丘の手前では、その飛鳥川が大きく流れており、急流のごうごうたる音が力強く彼らの耳にも聞こえてくる。
彼らは飛鳥川の川筋に沿って、尚も勢いよく馬を走らせていく。
その後に厩戸皇子達は甘樫丘の側までやって来ると、続けて丘の頂上まで一気に登っていった。
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