第14話

椋毘登くらひと、それちょっと怖くない~!あなた馬子様の甥で、護衛もしているんでしょう?というより蘇我に恨みを持って死んでいった人なんじゃ……」


 それを聞いた稚沙ちさは驚いて思わず足を止める。彼は蘇我一族の人間なのだ。であればそんな蘇我に対して恨みを抱く人間なんて、過去にも大勢いたはずである。


「でも不思議と恐怖は全く感じないんだ。何となく懐かしさもあるしね。それに相手は、何故だか俺に助けを求めているようだったから」


「そ、そうなの」


「まぁ、特にそれで何か問題がある訳でもないしね」


 椋毘登がそういうなら、とりあえず本人に何ら危険性はなさそうである。それなら彼の遠い先祖なのかもしれない。


「だが、このことは身内も含めて、俺は誰にも話していない。お前は蘇我の一族じゃないから話してみただけだ」


(まあ、自身の一族内でこんな話をしたら、逆に椋毘登の方に何かあるのではと思わてしまいそう……)


「分かったわ。私も椋毘登の為にならないことをするつもりはないから」


「こんな話をしておいて何だが、お前もこのことは変に気にするな」


 そういって彼はこの話を終わらせようとする。結局の所その不思議な夢が何を意味してるのか、それは2人にもわかない。


(でもこういうことって、誰かに相談とかできないのかしら……)


 稚沙にとって、椋毘登に害が及ぶことだけは絶対に避けたい。でもだからといって、自分では何か出来る訳でもないので、何ともやりきれない思いだ。


 そんな稚沙が1人で悶々としているなか、椋毘登は稚沙を連れて再び歩き出そうとした。


 だが遠くの方から何やら音が聞こえてくる。これは恐らく馬の蹄の音のようで、数体の馬がこちらに向かって走ってきているようだった。


(一体誰だろう?)


 稚沙は思わず椋毘登の後ろに隠れながら、前の様子を伺うことにした。

 一方の椋毘登も、馬が走ってくる方向を真っすぐ見つめている。


 そして次第に蹄の音が大きくなってくると同時に、やってくる人物の姿も徐々に姿が見えてくる。

 相手は3人組のようで、2頭の馬に分かれて乗っているようだ。

 1頭は大人と10歳ぐらいの男の子が乗り、もう1頭の方には12歳ぐらいの男の子が1人で乗っている。この組み合わせからして、恐らく親子なのだろう。


 彼らは稚沙と椋毘登の前までやってくると、ふと走るのを止めた。


(あれ、この人は確か……)


 稚沙は父親らしき人物を思わず垣間見る。相手はどうやら稚沙も見覚えのある人物のようだ。


 その男性は2人を見るなり、少し低めの声で話しかけてきた。


「椋毘登、まさかお前とこんな所で出くわすとはな」


「誰かと思えば摩理勢まりせの叔父上じゃないですか。それに毛津けつ阿椰あやも一緒に」


 椋毘登も彼らの正体に気づいたようで、少し不敵さを含んだ声でそう答える。

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