第5話
「あ、
「とにかく、俺達の関係はごくわずかの人達にしかいってないんだ。それにお前だって他の女官に知られたら、何かとまずいだろう?」
それは全くもって彼のいう通りである。女官の中でも特に若い自分が彼と恋仲だと知られたら、何をいわれてしまうか。
「うん、それは分かってる。で、でもね、私椋毘登の姿を見るとどうしても、気持ちが溢れてきちゃって……」
だが稚沙にそんなことをいわれては、さすがの椋毘登もたまったものではない。
彼はいきなり稚沙の腕も掴むと、そのまま周りを気にしながら横の裏道に彼女を連れ込んでいく。稚沙も彼の行動に頭がついていかず、されるがままであった。
そして裏道に入り、外から隠れるようにして彼女を壁にもたれさせると、椋毘登は稚沙を前からそっと抱きしめた。
「稚沙、お願いだから、そんな俺の理性を壊すようなこといわないでくれ。抑えが効かなくなるだろう?」
(うん、抑えが効かなくなる??)
稚沙は彼のいっていることがいまいち理解出来ず、ふと首を傾げる。2人の年齢は2歳差だが、この差が思いの他大きいようだ。
それから稚沙は、彼を思わずそのまま抱き返して、ふと尋ねた。
「ねえ、椋毘登。それはどういうこと?」
それを聞いた椋毘登は、本日2度目のため息をつく。そしてそれまでよりも力を少し強くして彼女を抱きしめてくる。
「まあ、今はまだ知らなくて良いよ。どうせいずれはお前も知るだろうから」
稚沙はさらに訳が分からなくなった。だが椋毘登がそういうのだ。きっと今はこのままで良いのだろう。
(うーん、いまいち良く分からない……でもまあ、今回は余り深く考えないでおくとしよう)
それから稚沙はふと、今日椋毘登に会いに来た理由のことを思い出す。元々ここに来たのは彼を歌垣に誘う為だ。
そして彼女は、やんわりと彼から自身の体を離し、そして彼の顔を見上げる。すると椋毘登は少し興奮気味な様子で彼女をじっと見つめていた。
「あ、あのね。実は私一つお願いがあって、椋毘登を探していたの」
「うん?お願い。俺に」
稚沙が椋毘登にお願いごとなど普段あまりしない。なので彼女のそんな突然の話に、今度は椋毘登の方が思わず不思議そうにしてくる。
「実はね、今度
「はぁ、歌垣?」
「うん、私歌垣って行ったことがなくて、それで一緒にどうかなって……」
椋毘登もそれを聞いてようやく稚沙の意図することを理解する。和歌を詠むのが好きな彼女だ、それならそういった物にも興味が沸くだろう。
「それに私たちって、互いに歌の詠み合わせとかしたことがないでしょう?だから良い機会かなと思って」
稚沙は少し照れながらも、彼に笑みを込めてそう話す。そして後は彼の返事を待つのみだ。
(さあ、あとは椋毘登がどういうか)
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