第87話

稚沙ちさはそんな彼女を見て、とりあえず自分が今回の状況を彼に説明することにした。


すると彼の方も、薄々は感づいていたようで、特に驚きはしなかったみたいだ。


椋毘登くらひとはへんな所で、頭が固いというか、真面目すぎるんですよね。でもまあ皇女が相手ってのは、さすがのあいつでも無理があるでしょうし」


蝦夷えみしにそういわれて、糠手姫皇女ぬかでひめのひめみこは思わずうつ向いてしまう。


そんな彼女を見て、稚沙は思わず蝦夷を睨み付けた。今の彼女の気持ちは、稚沙にも痛いほど分かる。


「あ、悪い。別に悪気はなかったんだが……あ、そうだ!それなら気分転換に3人で馬に乗ってちょっと外に出てみないか?」


「え、この3人で?」


稚沙がそういうと、糠手姫皇女と2人で思わず互いに顔を見合わせる。


彼は恐らく、いつも何かあると馬で外をよく駆け回っているのだろう。


「まぁ、それは楽しそうね」


糠手姫皇女は蝦夷の提案を聞き、思いのほか乗り気なようである。


「よし、そうしよう!稚沙の仕事に関しては、俺から上手く話をつけてやるよ」


彼はまたしても、稚沙の仕事をうまくかけあってくれるつもりでいるようだ。


(蝦夷って、本当にこういうの好きよね……)


「だが皇女が外を出歩くのも余り良くないか……それなら稚沙、悪いが彼女に服を貸してやってくれないか?その方が糠手姫皇女も気が楽だろうし」


それを聞いた稚沙は、そこまでやるのかとちょっと驚いてしまう。だが確かにその方が、糠手姫皇女も羽を伸ばせて良いかもしれない。


そしてその後、蝦夷が炊屋姫かしきやひめに直接話しをしてくれる。

すると炊屋姫も、糠手姫皇女の良い気分転換になるのと、稚沙が付き添うなら構わないとのことだった。


さらに蝦夷の馬だけでは3人乗れないので、小墾田宮おはりだのみやの馬をさらに1頭貸して貰えることになった。


そこで蝦夷の馬には彼と糠手姫皇女が一緒に乗り、小墾田宮から借りた馬には稚沙が1人で乗る。



こうして3人は、馬に乗って外へと駆け出していった。

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