第48話

それからしばらくして、稚沙ちさはやっと泣きやんだ。


椋毘登くらひと、迷惑かけてごめんなさい。厩戸皇子うまやどのみこが来られないのなら、ここにいても仕方ない。私は住居に戻ることにする」


だが今は日もかなり暮れており、辺りもギリギリ見える程度である。


そう話す稚沙に対して、椋毘登はふと彼女にいった。


「でもお前、元々厩戸皇子と星を見る約束をしていたんだろ?だったら俺がこれから一緒に行ってやるよ」


椋毘登は少し面白そうにして、彼女にそう話した。


「え、椋毘登と。それも厩戸皇子から頼まれていたことなの?」


「いいや、それはいわれていない。これはあくまで俺個人の提案だよ。

それにこのままだと、お前も辛いだけのままだろ?」


(でも椋毘登からしてみれば、そんなことしても何にもならない)


「べ、別にそこまでしてもらう必要なんてないわ。これ以上あなたに迷惑なんてかけたくないもの……」


稚沙は頑なに彼の提案を断ろうとした。こんな恥ずかしい場面を見れたあとだ。なおさら素直に同意することができない。


だが椋毘登の方は、どうも引き下がる気はないらしく、強引に彼女を立たせると、手を掴んで「良いから行くぞ!」といってそのまま歩き始めた。


そのため稚沙も、結局はなすがままの状態で、彼に連れていかれることになってしまった。


(椋毘登は一体何を考えているの)


稚沙は椋毘登のその強引な行動に対して、少しムスッとしてしまう。


一方椋毘登の方は、何故だか妙に楽しそうにしていた。



そして小墾田宮おはりだのみやの門から少し歩いた所までくると、2人は足を止める。


辺りは木立こだちになっており、一面が草木でおおわれていた。

そして空を見上げると、月と満天に輝く星々がとても光輝いていた。


その光景を目にした2人は、思わず釘入るようにして夜空を見る。


「わぁ、凄い綺麗~!!」


「あぁ、本当にそうだな」


それから2人は、近くに岩場があったので、そこに座って腰かけて星を見ることにした。


「星って、俺達が生まれるずっと前から、こうやって夜空で輝き続けていたんだろうな」


「確かにそうね。昔の人達も同じように、こうやって星を見ていたんだわ!」


そしてふと彼女は北の星の中で一番光

輝く星を見つけた。

その下には北斗七星もあるので、きっとこれは北極星であろう。


「ねぇ、椋毘登。北の方角にとても綺麗に光って見える星があるわ」


稚沙はその星を指差して、彼にそう話す。


「あぁ、あれは北極星か?」


「多分そうだと思う!北斗七星も下に見えるから」


稚沙もやっと気持ちが落ち着いてきたようで、だんだんと笑顔で話をするようになってきた。


そんな嬉しそうにして話す彼女を見て、椋毘登も少しほっとしたような表情を見せる。


「とりあえずお前が、元気になって安心したよ。さっきまでかなり泣き崩れてたから、何んかほっとけなくてね」


やはり椋毘登は、稚沙の様子を心配して、星を見に誘ってくれたようだ。

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