第13話

椋毘登くらひと、本当に今回は申し訳ない。私の方からも彼女にはちゃんといって聞かせる」


 厩戸皇子うまやどのみこは椋毘登にそう話す。


 稚沙は大和の皇子である彼にここまでいわせてしまい、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


(厩戸皇子、本当にごめんなさい)



「では、皇子。私達もそろそろ帰ることにします」


 馬子は皇子にそう話すと、椋毘登に「では、行くぞ」といって彼を連れてその場を離れていった。


 稚沙と厩戸皇子は、そんな彼らをしばらく見送っていた。



 2人の姿が見えなくなったのを確認すると、稚沙は直ぐさま彼に謝った。


「厩戸皇子、本当に済みませんでした!私が軽はずみなことをしたばかりに……」


 これはさすがの彼も怒るだろうと、彼女も覚悟をしたが、どうやら彼の思惑は少し違っていたようだ。


「正直、今回は本当に焦った。先程は椋毘登が今にも稚沙を切り殺そうとしていたからね。君は恐らく彼らの情報を何かつかもうとしたかったのだろ?」


 どうやら稚沙の考えてることは、彼にはお見通しのようだ。


「はい、本当にその通りです。少しでも皇子のお役に立てればと思って。でも流石に反省しましたので、今後はこのようなことは絶対にしません」


「まぁ、君のその気持ちはとても有り難いが……今後は本当に気を付けなさい。分かったね」


 稚沙は皇子にそういわれて「はい、そうします」と返事をした。


 厩戸皇子の為にと思ってしたことが、結果的に迷惑を掛ける形になってしまった。本当に悔しいやら、情けないやらである。


「とりあえず、もう過ぎてしまったことはどうしようもない。稚沙もいつまでも落ち込んでないで、元気を出さないか。元気なのが君の取り柄だろ?」


 こんな状況でも、彼は本当に優しいなと稚沙は思った。



「では俺もそろそろ自分の宮に戻ることにする」


「はい、皇子も帰りの道中はお気をつけて」


 稚沙も皇子である彼が帰ってしまうのはとても寂しい。だがこれは仕方のないことである。


 そんな彼女の言葉を聞いた厩戸皇子は「あぁ、分かってる」と、いつもの優しい表情でそういった。


 そしてその後、彼はここ小墾田宮を後にした。



(とりあえず今日のことはちゃんと反省して、引き続きまた頑張ることにしよう)


 稚沙はそう誓って、自身の仕事へと戻っていった。






 一方その頃、蘇我馬子と椋毘登は彼らの住居に向かって馬を走らせていた。


「しかし、先程の娘は中々面白いな。本当に度胸が据わっている」


 馬子はとても愉快そうにして、隣の椋毘登にいった。


 だが彼の方は少し不満気味のようで「そうですね」とだけ静かに答える。



(一体あの娘は何なんだ。興味本位にも程がある。今度同じことをしてみろ、次は本当に容赦しない……)



 彼はそんなことを思いながら、蘇我の一族の住居へと戻って行った。

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