炊屋姫の誓願
第8話
この日、
そのために、ここ
宮の使用人達は、集まった人達をすぐさま
女官の
「稚沙、早くこれを運んでちょうだい!それから
「ちょっと、稚沙!これ頼んでいた物と違うじゃない。急いで倉庫から取ってきなさいよ!!」
彼女はここの宮では最年少であり、一番経験の浅い女官である。
そのために他の女官達は皆、彼女に容赦無しに指示を出していった。
(まさか、こんなに忙しいなんて)
今日は大王の炊屋姫が詔して、大和とその周辺から沢山の人々がやってきていた。
そのせいだろうか、日頃の務め以上に宮仕えの者達の目が、皆とても厳しくなっている。
そんな中で、もし何か粗相でもあればただでは済まされない。
(とにかく、ここさえ乗り切れば……その後は炊屋姫様がお出になられる)
そして稚沙が忙しくしていると「おぉ、稚沙じゃないか!」と誰かが急に声をかけてきた。
彼女が思わず振り向くと、そこには一人の中年の男性が立っていた。
「あ、
彼女がそう呼んだ人物は、
そして彼は稚沙の父親の従兄弟という間柄で、彼女を小墾田宮の女官に推薦した人物でもある。
額田部比羅夫は稚沙を確認すると、直ぐさま彼女の元にやってきた。
「どうだ、稚沙。宮での仕事にはだいぶ慣れたか?」
彼は割りと気さくな性格で、皇族や他の豪族の人達からも、とても慕われていた。
そして稚沙自身も、そんな比羅夫のことが大好きである。
「はい、お陰さまで。ただ今日は本当に忙しくて、私は怒られてばかりで……」
彼女はそういうと、少しシュンとする。
彼は自身を宮の女官に推薦してくれた人物だ。にも関わらず、今日は中々良い所が見せられそうもない。
それを聞いた額田部比羅夫は、その場で思わず笑いだした。
「稚沙、お前はまだ女官になって1年と半年ぐらいだろ?それなのにこんな晴れ舞台で働いているんだ。そのことにもっと誇りを持ったら良い」
額田部比羅夫は稚沙にそういうと、彼女の頭を軽くぽんぽんと撫でてくれた。
(お、叔父様……)
それを聞いた稚沙は、思わず涙腺が少し緩んでくる。今日はずっと気を張っていたので、彼の言葉が今はとても身に染みる思いだ。
「叔父様、私はまだまだ半人前だけど、頑張っていつか立派な女官になりたいです!」
彼女は少し泣きそうになりながらも、何とか笑ってそう答えた。
そんな稚沙を見た比羅夫は「そうだ、そうだ、まだまだこれからじゃないか。お前ならきっと大丈夫だ!」といって彼女を励ましてくれた。
(比羅夫の叔父様、私頑張ります!)
その後しばらくして彼は稚沙にいった。
「じゃ私は行くよ。向こうに
彼のいう宇志とは、
そして大礼の位にいる額田部比羅夫よりもさらに高い、
「はい、分かりました。では宇志様にも宜しくお伝え下さい!」
稚沙はそういってから、手を大きくふって額田部比羅夫を見送った。
(今日は比羅夫の叔父さまに会えて、本当に良かった)
額田部比羅夫の姿を見送った彼女は、その後は自身の持ち場へと戻っていった。
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