第44話

数日後、今日は大泊瀬皇子おおはつせのおうじ葛城円かつらぎのつぶらの元に来る話しになっていた。


今の大和王権において、大連おおむらじ物部伊莒弗もののべのいこふつに代わり大伴室屋おおとものむろやと言う人物が担い、大臣おおおみ韓媛からひめの父親の葛城円が引き続き担っている。


それで葛城円とのやり取りは、ひとまず今まで通り、大泊瀬皇子が葛城に出向いて行う事になっていた。


「今日は余り大泊瀬皇子に会いたい気分じゃない……気分転換も兼ねて、家の外に出て散歩でもしてみようかしら」


韓媛は、先日の大泊瀬皇子の妃選びの件をかなり気にしていた。先日の使用人達の話だと、父親の円も相手が誰かまでは確認出来なかったようだ。


(お父様にも、この話しはその後中々聞けないでいる。本人に聞くのが一番早いのだけれど、それも何となく気が重いわ)


「とりあえず、1人でいても色々考えてしまうから、散歩に行って時間をつぶしましょう」


韓媛はそう思い立つと、部屋を出て外に向かう事にした。

だが今回は使用人には言わないで行くつもりだ。


今日は大泊瀬皇子が来る事になっているので、そんな中外に行くとなると、変に思われても困るからだ。



そして彼女が部屋を出て、家の外に向かっている時だった。いきなり自分の名前を誰かに呼ばれた。


「おい、韓媛。お前どこに行くつもりだ」


韓媛は思わずビクッとした。そして恐る恐る後ろを振り返ると、そこには大泊瀬皇子本人が立っていた。


「あら、大泊瀬皇子来られてたのですね。丁度気分転換に、少し外に出てみようと思っていたの」


韓媛はとりあえず、彼に普段通りに挨拶をした。


大泊瀬皇子の方も、特に不思議がる感じでもなく、彼女の側に近付いてきた。


「あぁ、悪いな。今日もここに来ていて、円とは今話しが済んだところだ。これからお前の元にも寄ろうとしたが、丁度目の前にいたのでな」


そんな彼の話しを聞いて、彼女は中々自分の思うようには行かないなと思った。


「本当にそれは済みませんでした。大王も変わられた事ですし、皇子も色々と大変なのではないですか?」


とりあえず彼女は、今の大和の現状を聞いてみる事にした。これはこれで丁度気になっていた所である。


「あぁ、穴穂あなほの兄上も最近は少し落ち着いて来た感じだ。そのため、今は政り事以外にも目を向けるようになってきている」


(政り事以外……それってもしかして大泊瀬皇子の件も含まれてるのかしら)


韓媛は、もうここまで来たら観念して、彼に直接聞いてみようと思った。

これは恐らく、いずれ自分も知る事になる話しなのだから。

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