第24話

そして、その日の夜の事である。

雄朝津間大王おあさづまのおおきみの皇后である忍坂姫おしさかのひめが、大王の部屋に来ていた。


大王は自身の寝床に横たわり、静かにしていた。


彼は少し眠たそうにしている。


彼女はそんな彼に対して、ひっそりと一人言のようにして語りだす。


「私もこれまで生きてきて、本当に色々ありました。楽しい事や辛い事も、沢山経験して……」


「あぁ、俺も本当にそう思う。特に君と出会ってからはね」


大王も眠そうにはしているものの、彼女の問いかけには耳を傾けているようだ。



忍坂姫が初めて大王の元に来た時、彼女はまだ10代だった。

そして当時皇子だった彼に出会い、彼女は一目で恋をする。


元々2人の婚姻は、当時の大王や親たちが決めたものだった。だが彼女からしてみれば、本当に純粋で淡い恋だった。


(あの頃は、本当に毎日が慌ただしかった……)


それから2人は徐々に惹かれ合い、次第に互いに愛し合うようになる。

そして本当の夫婦となった後、2人は9人もの子供に恵まれた。



「でも私が心残りなのは、やはり妹の衣通姫そとおりひめでした」


忍坂姫には、元々3歳年下の衣通姫と言う妹がいた。彼女は本当に綺麗で、とてもおしとやかな娘である。


そんな彼女が年頃になり、何かひどく悩んでいるふうだったので、彼女の親達が本人に問いただした。


すると彼女は恋をしていたようで、その相手が、忍坂姫の夫の雄朝津間大王だった。


とは言え、大王は皇后の忍坂姫を大事にしていたので、衣通姫を妃にするつもりはさらさらなかった。


だが衣通姫はかなり思い悩んでいて、このままでは彼女が死んでしまうのではと、周りの人達は心配する。


そこで仕方なく、雄朝津間大王は彼女を妃にする事を承諾し、彼の宮から割りと離れた所に彼女の住まいを作らせる。


だが何かと理由をつけて、彼は衣通姫の元に中々行こうとはしなかった。


そして結局、衣通姫はそのまま寂しく人生を終える事となる。


彼女が亡くなったと聞いて、忍坂姫はずっと泣き続けた。たった1人の妹を、自分は助けて上げられなかったのだ。


「衣通姫、本当にごめんなさい。まさかあなたが大王を好きになるなんて、思いもしなかったのよ」


忍坂姫はそんな妹の事を、色々と思い返していた。


そして彼女はふと雄朝津間大王の事が気になった。

先程から彼が静かだったため、てっきり眠りについたのだと彼女は思っていたが、どうも彼の様子がおかしい。


(うん?大王)


忍坂姫が思わず彼の顔を覗き込んだ。


すると、彼は静かに目を閉じていた。


そんな大王を見た彼女は、しばらくしてやっとことの状況に気付き、その場で声を張り上げて叫んだ。


「お、雄朝津間!!」


何と雄朝津間大王は、自身の部屋で静かに息を引き取っていた。


その後宮内は大騒ぎとなり、大王の子供達も、一斉に彼の元に駆けつける事となった。


忍坂姫は家臣達が来ても、雄朝津間大王からずっと離れようとはせず、「どうしてどうして、死んでしまうのよ!!」

と言って泣き叫んでいた。



それからしばらくして、雄朝津間大王の葬儀が執り行われる事となる。



こうして、21年間にわたる雄朝津間大王の治世は、静かに終わりを告げる事となった。

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