葛城円の危機

第12話

大泊瀬皇子おおはつせのおうじが4年ぶりに葛城の元を訪れてから、2週間程が経過していた。


葛城円かつらぎのつぶらが自身の部屋で仕事をしていた時の事である。

娘の韓媛からひめが綺麗な山茶花が手に入ったので、父親にあげようと思い、部屋へと向かった。


「お父様、綺麗な山茶花が手に入ったのでお持ちしました。中に入っても宜しいですか?」


彼女は、父親の部屋の外から声をかけた。しかし中からは一向に返事が返ってこない。


(あら、変ね。先程は部屋にいたはずなのに……)


「お父様、いらっしゃらないのですか?」


韓媛は何度か部屋の外から声をかけてみた。しかしそれでも何の反応もない。

彼女がどうしたものかと、途方にくれていると、部屋の中から奇妙な唸り声が聞こえて来た。


「う、うぅ……」


(え、お父様?)


韓媛はついに待ちきれなくなり、そのまま部屋の中へと入った。


実際に入ってみると、部屋の中では葛城円が俯伏せの状態で床に倒れていた。そして彼はとても苦しそうにしている。


「お、お父様! 一体どうされたのですか」



韓媛は慌てて父親に駆け寄った。そして彼を一旦仰向けにし、彼に声をかけた。

円も一応意識はあるみたいで、とてもしんどそうにしている。


そして彼女が彼のおでこに手を当てると、かなり熱を持っていた。


(凄い、熱だわ……)


「韓媛、悪いな……急に体がフラついて来たかと思うと、そのまま酷くしんどくなり、さらに熱が出てきたようだ」


彼はそう言って、尚もしんどそうにしている。


とりあえず、このままだと父親が危険だ。急いで治療に当たらないと、命まで危ういかもしれない。

韓媛は急いで使用人達に伝える事にした。


「お父様、待ってて下さい。急いで誰か呼んで来ますから!」


彼にそう言って、彼女は部屋を飛び出して行った。


そしてこの家の使用人に今の現状を伝えた。それを聞いた者は慌てて、病気に詳しい者を呼ぶ事にした。


韓媛も何か自分に出来る事をしないとと思い、ひとまず水で濡らした布を用意して、円の体を拭いたり、水を飲ませてみる事にした。


(お父様にもしもの事があったら、どうすれば良いの……)


韓媛にとって、父親である円は唯一の近い肉親だ。そんな彼にもしもの事があれば、彼女には到底耐えられるものではない。



それから暫くして、病気に詳しい者がやって来た。

そして急いで父親の状態を見てもらうも、原因は不明との事。


韓媛は水が足りなくなったため、追加の水を急いで取りに行く事にした。そして彼女が走っていると、うっかり誰かにぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい。急いでいたものだからつい……」


韓媛が慌ててぶつかった相手に謝った。そして相手の顔を見ると、それは何と大泊瀬皇子だった。


どうやら彼は、今日葛城に来ていたようだ。

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