大泊瀬皇子の訪問

第7話

「最近父上が体調を崩しやすくてな。俺は昔葛城には良く来ていたから適任だった」


大泊瀬皇子おおはつせのおうじは4年ぶりに会ったと言うのに、至って普通に彼女に話しかけてきた。4年前に比べて、彼は背もかなり延びていて、少し凛々しさも感じられた。


この4年間で、彼自身も大きく成長したのかもしれない。


(まさか大泊瀬皇子が今日の代理だったなんて、全く想像してなかったわ)


「大和から今日代理で来られたのは大泊瀬皇子だったのですね……雄朝津間大王おあさづまのおおきみが体調を崩しやすい話しは聞いてます。父も大王の体調は心配だと言ってましたから」


葛城円かつらぎのつぶらは日頃から、大和の話しを良く韓媛からひめに話すようにしていた。本来姫にそこまでする必要はないが、韓媛自身が政り事に関心があり、何かの役に立つ事もあるのではと彼は考えていた。


「父上の事は先ほど円と話している際も聞かれた。まぁ、安静にはしてるのでそれ程でもないがな」


韓媛はそれを聞いて少し安心した。大王の体調不良は、彼の家臣や他の豪族達からしても気がきでない。


(とりあえず、雄朝津間大王が安静にされてるようで安心したわ。大和は今、木梨軽皇子きなしのかるのおうじ軽大娘皇女かるのおおいらつめの件の事で色々大変なはず……)


「それを聞いて安心です。父との話しはもう済まれたのですか?」


元々彼はこの場所をとても気に入っていた。父親との話しが終わって、それで来ていたのであろう。


「あぁ、先程な。ここは俺も元々気に入っていて、それで少し懐かしくなって来てみた」


彼はそう言って、この木をとても懐かしそうにして見ていた。この木は皇子と韓媛にとってはとても思い出のあるものだ。


(この木を見つめる皇子は、本当に少年のような顔だわ。それは当時と変わってない)



「本当に、皇子とはここで色々遊びましたものね。追いかけっこや、かくれんぼなんかして……あとは、変ないたずらにも付き合わされたりして」


韓媛はふと当時の事を思い出し、口に手を添えてクスクス笑った。


大泊瀬皇子は一緒に来ていた大和の大人達にもいたずらして、よく怒られていた。でも彼はそれでもめげずに、韓媛に『また今度続きをやろう』とまで言っていた。


「そうだったな。俺も流石に今はそんな悪さはしないが……

それに、お前だっておれが見つけて捕まえようとしたら、いつも上手く交わしていたな。まるで触れてしまったら消えてしまうかのように」


彼はそう言いながら韓媛を見た。彼女もこの4年間で少し背も伸びて、前より少し大人びたなと思った。父の円の話しでは、最近は政り事にも関心を持っていると聞き、そこら辺はやはり親子だなと彼は思う。


それを聞いた韓媛は、少し愉快そうにしながら彼に言った。


「まぁ、そう上手くして逃げないと、遊びにならないでしょう。皇子の方が力があるのだから、女の私が逃げるとなると、それなりに考えます」


韓媛も4年ぶりに会ったにも関わらず、こうも気軽に彼と話しが出来ているのが、何とも不思議な感じがする。

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