第5話

「あとそう言えば、当時は本当にふざけた事も言っていたのよね。あの皇子は……」


当時、韓媛からひめ大泊瀬皇子おおはつせのおうじがいつものように一緒に外で遊んでいる時の事だった。


「なぁ、韓媛知ってるか。俺はいずれ大和にとって、なくてはならない人物になるだろうって、お前の父親に言われたぞ」


大泊瀬皇子は、韓媛の父親にそう言われて、とても上機嫌である。


だがそれを聞いて彼女は思った。

きっと自分の父親が、皇子に気を遣ってそう言ったのだろう。これだけの問題児だ、彼が大和の重要な人物になるなど、彼女には到底思えない。


「まぁ、大泊瀬皇子それは本当に凄いわ。お父様もきっと、皇子にそれだけ期待しているのよ」


韓媛は皇子が余りに嬉しそうだったので、水をさしては流石に可哀想と思い、彼の話しに合わせる事にした。


「あぁ、お前も期待していたら良ぞ。もしそうなったら、お前は俺の妃にしてやる」


大泊瀬皇子は、彼女にそんな事を平然として言った。


(また何かのお遊び事じゃないのだから……)


「何で私が皇子の妃になるのよ。それにそういう事って、私まだ良く分からない。私達まだ子供なのだから、そんな事気にしなくて良いんじゃない?」


韓媛は、皇子の話しに対して特に動揺する訳でもなく、至って冷静に答えた。


大泊瀬皇子は、彼女からはっきりそう言われてしまい、思わずムッとした。


「何だよ、人がせっかく妃にしてやるって言ってるのに。それにお前こそ、そんなんじゃ誰にも貰ってもらえなくなるぞ」


韓媛はそう言われて、彼は自分よりも年上のくせに、本当に子供だと思った。


「あら、それなら大丈夫よ。私が年頃の娘になったら、お父様がちゃんと嫁ぎ先を見つけてくれるって言っていたわ。

それに大泊瀬皇子の方こそ、いつまでもそんな子供みたいな事言ってると、妃なんか見つけられなくなるわよ」


この時代、姫の嫁ぎ先は親が決めるものだと彼女は思っている。それに相手がこんな問題児となると、きっと気苦労が絶えないだろう。


「ふん、大人になって泣き付いてきても、俺は知らないからな」


大泊瀬皇子は、少し拗ねたような口ぶりで彼女に言った。



そしてどう言う訳か、それ以降大泊瀬皇子が韓媛の元を訪れる事が無くなってしまった。


これは彼の親や家臣達が、いつまでも遊んでばかりの彼に、もっと皇子としての自覚を持ってもらうためと言う話しだ。


だがこれはあくまで噂であって、真相は彼女にも分からない。

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