鏡に映った男女

第64話

「じゃあ、俺はそろそろ自分の部屋へ戻るよ」


朝の食事を終えた雄朝津間皇子おあさづまのおうじは、そう言って、忍坂姫の部屋を出て自分の部屋へと戻って言った。


忍坂姫おしさかのひめはそんな彼を部屋の入り口から見送り、その後部屋の中に戻った。


(とりあえず、何事も無くて安心したわ)


忍坂姫自身、まさか雄朝津間皇子がここまで変わるとは思ってもみなかった。

まるで彼が、自分に嫌われないように気を遣っているふうに見える。


(まぁ、私が日頃言っていた嫌みを、単に気にしていただけかもしれないけど)


それでも皇子自身が変わってきているのは良い兆しである。

瑞歯別大王みずはわけのおおきみも今回の事を知ったら、きっと喜ばれるだろう。



「それにしても、あの千佐名ちさなって子の件は、何か良い方法はないものかしら」


忍坂姫はどうしたものかと再び考え込んだ。しかしこれといって良い考えは中々浮かんでこない。


すると、ふと台の上に置いてある鏡に目がとまった。前回の七支刀しちしとうの件以降、鏡は袋から出したままにしていた。


(もしかしたら、今回も何か見えるかも?)


彼女はそう思い、鏡の前に来て座った。

だが鏡には特に何も映ってはいなかった。


「お願い、千佐名と言う娘を助けたいの。どうしたら良いのか教えてちょうだい」


そして暫くすると、また鏡に奇妙な光景が映り出した。


忍坂姫は思わず鏡に釘付けになって、その光景を見た。


(これはどこかの村の家かしら?結構立派な家ね)


その家は普通の農民の住居と比べてとても立派で広く、この辺りを取り仕切っている家のように思えた。


その家の入り口に、1人の青年が立っていた。年は17、18歳前後ぐらいに見える。割りと整った顔立ちの青年で、誰かを待っているのだろうか。

そして手には何やら包みものを持っている。


すると、今度は家の中から1人の少女が出てきた。こちらは忍坂姫ぐらいの年齢ぐらいのように見える。割りと綺麗な娘で、翡翠で出来た耳飾りをつけていた。


その少女を見るなり、青年は包みから何かを取り出して、その少女に渡した。

何を渡したのだろうかと思ってよく見ると、何やら髪飾りのようで、赤茶色で先に小さな石が紐で結ばれていた。


少女はその髪飾りを受け取り、とても喜んでいるようだった。


(この2人は一体誰なんだろう?)


忍坂姫がそう思っていると、そこでその光景が消えて、鏡には元の彼女の顔が映っていた。


「うーん、今回も何か不思議な光景が出ていたわね」


ただ鏡に映っていた場所がどこか分からないのと、そこに映っていた2人も誰なのかさっぱり分からない。


「あ、そうだわ!この宮の人に今見た家の特徴を話してみたら、誰か知っているかもしれない」


そう思った忍坂姫は、早速部屋を出ていき、宮の人に聞いてみる事にした。

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