第53話

舞が終わると、その場に物凄い拍手が湧いた。誰もが彼女の舞に魅了された。


そして舞が終わるなり、市辺皇子いちのへのおうじ忍坂姫おしさかのひめに飛びついた。


「忍坂姫、僕こんな舞初めて見たよ!!」


市辺皇子はかなり興奮気味にして言った。

そんな市辺皇子を見て、彼女もとても嬉しくなった。


「忍坂姫」


彼女は瑞歯別大王みずはわけのおおきみに呼ばれて、大王に振り返った。


「この度の姫の舞は本当に素晴らしかった。恐らくこの場にいた全ての者が、姫の舞に魅了された事だろう。俺もこんな舞は初めて見たな」


忍坂姫は瑞歯別大王にそう言われて、少し恥ずかしそうにして言った。


「そんな大王、滅相もございません。でも大王や他の皆さんに喜んで頂けたのであれば、本当に良かったです」


忍坂姫はそう大王に言うと、その場でお辞儀した。

するとまた沢山の拍手が響いた。


(とりあえず、上手くいって本当に良かったわ)


そして彼女は市辺皇子と一緒に元の席に戻って行った。


それから隣にいる雄朝津間皇子おあさづまのおうじをふと見た。彼も彼女の舞を見て相当驚いたようだ。


「雄朝津間皇子、どうかされましたか?」


忍坂姫は彼が何も話さないので、ふと彼の顔を覗き込んだ。

彼は少し頬を赤くしていた。



「さっきの舞、まるで君が女神のように見えたよ」


忍坂姫は雄朝津間皇子の口から、思いもよらない事を言われてとても驚いた。

彼の目に、自分は女神に見えたなんて、なんて嬉しい褒め言葉だろうと。


「まぁ、雄朝津間皇子にそんなふうに褒められるなんて意外でした」


忍坂姫はそう言って、少しクスッと笑った。


すると雄朝津間皇子は彼女の手を強く握ってきた。


「だが手を離すと、思わずそのままどこか遠くへ行ってしまう、そんな気持ちにさせられたよ」


まさかそれで、自分の手を握っているのだろうか。どうやら雄朝津間皇子は彼女の手を全く離す気は無さそうだ。


(流石にずっとこのままなのも困るんだけど……)


だがどうする事も出来ないので、暫く皇子の好きにさせる事にした。

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