第33話

そんな時だった、ふと部屋の台の上に置かれている布に目がいった。


「これは確か、お母様からい頂いた鏡が包まれている布だわ」


忍坂姫おしさかのひめは何となくその布から鏡を取り出して台に置いた。


(そう言えば、この鏡は見えない物を映す鏡って言っていたわよね)


「もう、本当にそんな鏡だったら、誰が犯人なのか教えてよ!!」


忍坂姫がそう叫んだ時だった。鏡に何か自分とは違う物が映っているように見えた。


(うん、何これ?)


彼女が思わずその鏡を見ると、そこには男性らしき人が映っていた。そして何か細長い物を布に包んだ状態で持っていて、どこかの部屋に入って行った。入り口には少し細長めの土器が両隣に1つずつ置かれいた。


(これは一体何の……)


彼女が必死でその鏡の男性を見ると、首元にかなり大きな痣があった。

そしてその袋から何かを取り出していた。それはかなり変わった形の剣だった。


(あれ、確か七支刀ってあんな形の剣って言ってたわよね)


そこでふと謎の光景が鏡から消えて、元の自分の顔が映っていた。


「ちょっと待って、今の光景って!」


忍坂姫はいきなり立ち上がって部屋を出た。そしてすぐさま雄朝津間皇子おあさづまのおうじの部屋へと向かった。

今は丁度夕方過ぎで、皇子も夕食を済ませた頃ぐらいだろう。


雄朝津間皇子の部屋の前に着くなり、外から返事もせずに忍坂姫は部屋の中に入った。

皇子は丁度部屋の中でお酒を飲んでいたみたいだった。


「お、忍坂姫。一体何事だ!!」


忍坂姫はそのまま勢い余って、皇子に飛び付く形になってしまった。


「雄朝津間皇子、実はお願いがあって」


雄朝津間皇子はいきなり忍坂姫に飛び付かれて、かなり気が動揺した。


「ち、ちょっと待ってくれ。まさかこんな誘われ方ってあるか」


雄朝津間皇子は、忍坂姫がお忍びでやってきたと勘違いしたみたいだ。


(へえ、誘う?)


雄朝津間皇子は、そのまま忍坂姫をその場に押し倒した。


「どうせなら、もう少し上手くやってくれよ。これだからお転婆娘は」


雄朝津間皇子はそのまま、忍坂姫に覆い被さってきた。そしてあと少しで彼女の唇に触れる所まで来ていた。


ここまできて、やっと忍坂姫も事の意味を理解した。


「ち、ちょっと。一体何勘違いしてるんですか!最低!!」


忍坂姫は思いっきり皇子の頬を引っ叩いた。

すると部屋の中で、皇子を引っ叩いた音が凄く響いた。


「い、痛て!!」


雄朝津間皇子は思わず忍坂姫から体を離し、そして叩かれた頬に手を当てた。


(もう、この皇子は一体何を考えてるのよ)

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