第28話

「最初大王から君との婚姻の話しを聞いた時、あのお転婆娘は流石に無理だと、正直思ったぐらいだからね」


それを聞いた忍坂姫おしさかのひめは一瞬頭が真っ白になった。雄朝津間皇子おあさづまのおうじが最初自分との婚姻を断った原因が、まさかそんな理由だったとは。


「そ、それは昔の事であって。今はそんなんじゃないです……多分」


(わぁー、本当に最悪だわ)


忍坂姫はだんだん泣きそうになって来た。どうしてこんな性格で自分は生まれてしまったのか。


そんな表情の彼女を見て雄朝津間皇子は言った。


「でも、確かに昔の君とはちょっと違うみたいだね。もし君が昔のままだったら、市辺がこんなに懐かなかっただろうし」


そんな忍坂姫に対して雄朝津間皇子は少し興味を覚えた。

市辺皇子いちのへのおうじがここまで懐くと言う事は、それだけ彼女の内面が素直で優しく、とても女性らしいのだろう。


(雄朝津間皇子……)


忍坂姫は雄朝津間皇子にそう言われて、何とか涙を押さえる事が出来た。


そんな様子を見ていた市辺皇子が、急に忍坂姫の服を引っ張って、話し掛けて来た。


「僕何かお腹空いてきた。ねぉ忍坂姫一緒にご飯食べに行こうよ~」


皇子は宮の中を色々歩きまわったので、お腹が空いてきたようだ。


「まぁ、それは大変。雄朝津間皇子、市辺皇子と一緒に食事に行って来ても良いですか?」


どうやら、忍坂姫は本気で市辺皇子に気に入られてしまったみたいだ。


「あぁ、それは構わないさ。俺も朝が早かったら、軽く食事でもするか。じゃあ市辺、俺も一緒に食べる事にするよ」


それを聞いた市辺皇子は少しムッとした。


「えぇ~僕は忍坂姫と食べたいの。叔父上は邪魔しないでよ」


そう言って市辺皇子は忍坂姫にぎゅっとしがみついた。


市辺皇子はどうも忍坂姫に甘えたい気分なのか、雄朝津間皇子が少し邪魔な存在に思えたみたいだ。


「か、可愛い~」


それを聞いた忍坂姫は、思わず市辺皇子を抱き締めた。


「じゃあ2人でご飯食べに行きましょうか」


(へぇ?)


雄朝津間皇子は思わず言葉を失った。


「うん、じゃあ忍坂姫は僕の妃だね」


市辺皇子はニコニコしながら彼女にそう言った。彼女からしたら市辺皇子は本当に愛くるしい皇子だ。


(もぅ、本当になんて可愛い皇子なの)


忍坂姫は市辺皇子にそう言われてかなり上機嫌だ。


幼い市辺皇子の思考ははっきりとはしないが、親を早くに亡くしている為か、夫婦や親子間の関係がやや曖昧なのかもしれない。


そんな市辺皇子の発言を聞いた雄朝津間皇子は、妃と言う発言に少し動揺した。


(何だろう、この状況。過去にも少し似たような事があったような……)


「じゃあ雄朝津間皇子、私市辺皇子と一緒に食事に行ってきますね」


そう言って忍坂姫は、市辺皇子と一所にスタスタと歩きだした。


それを見た雄朝津間皇子は慌てて2人を追いかけた。


「こらぁ、ちょっと待てって!」


そしてその後、何とか市辺皇子の機嫌を取って、3人で無事に食事をする事が出来た。

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