第18話

(確かに、自分が皇女だと迂闊に言うものでもないわ)


忍坂姫おしさかのひめは折角助けてくれたこの青年に、名前すら出せない事にとても申し訳なく思った。


そんな彼女の心境を察して、青年は気にする風でもなく言った。


「別にそんな事気にしなくて良いよ。逆にこんな状況で自分の身を明かす必要も無いしね。とりあえず君達が無事ならそれで良い」


そう言って、彼は忍坂姫の前に来た。


背もそれなりに高く、まるでどこかの皇子のようにも思えた。

ただ皇子がこんな盗賊退治のような事をするはずもない。


(この人は本当に一体誰なんだろう?)


思わず忍坂姫はジーと彼を見ていた。


そんな彼女に気づき、彼はちょっと気まずそうにした。


「あんまりそうやって、俺の事をじろじろ見ないでくれるかな。そんな風に見られると、ちょっと恥ずかしいと言うか……」


忍坂姫は彼にそ言うれて、思わず顔を赤くした。


「あ、私ったらごめんなさい、つい」


それからしばらくして、衣奈津いなつが横から声を掛けて来た。


「では、余り時間をかけるのも良くないので、先を進みましょう」


彼女にそう言われたので、忍坂姫も渋々従う事にした。

そして彼女は、引き続き雄朝津間皇子おあさづまのおうじの元に向かう事にした。


「では、本当に有り難うございました」


「いえいえ、どう致しまして。君みたいな女の子に危害が無くて本当に良かったよ」


青年は忍坂姫に笑顔で優しく答えた。


それを聞いた彼女はその青年に少しトキメキを覚えた。

だが直ぐにその事から彼女は目を反らした。


(何変な事考えてるのよ。自分は皇女で、これから婚姻相手になるかもしれない人の所に行こうとしてるのに)


「では、これで」


そして、そのまま彼女は雄朝津間皇子の元へと向かっていた。


そんな忍坂姫達を青年はずっと見送っていた。


「でもあの一行は一体どごに行くんだろうな……まぁ、もう会うこともないから良いか」



そして彼は、引き続き死体処理に取り掛かる事にした。

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