第14話

「お母様、分かりました。とりあえずこの鏡は受け取っておきます」


そう言うと、忍坂姫おしさかのひめはそのまま鏡を再度布に包んだ。折角の母からの贈り物だ、これは大事に持っておこう。


「じゃ明日が出発だから、今日はしっかりと休みなさい」


百師木姫ももしきのひめはそう娘に言って、彼女の部屋を後にした。


たかが1ヶ月と言えども、初めて親元を離れる事になる。忍坂姫も全く不安が無いと言ったら嘘になる。しかも行き先がもしかしたら嫁ぎ先の相手になるかもしれない男の元だった。


「あ、そうだ。一応この鏡も磨いておこうかしら。かなり古い物で、お母様もずっと布に包んだままだったようだし」


そう思った忍坂姫は、台の上に置いて中から鏡を取り出した。


「そんなに目立った汚れは無いわね。とりあえず、布で拭いておきますか」


そして部屋の中にある布を取ってきて、鏡を拭こうとした丁度その時だった。


鏡に自分とは違う人物が浮かんでるように見えた。


「へぇ?何これ!?」


彼女は思わず鏡を手から離して、少し後ろに下がった。


鏡には、少し暗くてはっきりとはしないが、男性が映ってるように見えた。しかも割りと若い青年のように思える。


(な、何で、知らない人が映ってるの……)


彼女はすぐさま後ろを振り返ったが、そこには誰もおらず、部屋の中には忍坂姫しかいなかった。


そして恐る恐る再度鏡を見てみると、鏡には元の自分の姿が映っていた。


「あれ、気のせい?」


それでもしばらくその状態で様子を見ていた。しかしその後も特に何の変化もなかった。


「変ね、気のせいだったのかしら?」


鏡にも特に異常は見られない。何か目の錯覚だったのだろうか。


「とりあえず、拭くだけ拭いて布に戻しておこう」


それから忍坂姫はさっさと鏡を拭き、布で包んだ。もしかすると何か変な影でも入ってしまったのかもしれない。


「そう言えばさっき、お母様がこの鏡は見えない物を映す鏡って言ってたわね。まさかね……うん、きっと気のせいだわ」


(もしかしたら、さっきそんな話しを聞いたから、そんな物が目の錯覚で見えたと思っただけなのかも)



こうして、忍坂姫は明日に備えて身の回りの荷物を再度確認し、明日に備えて今日は早く寝る事にした。

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