雄朝津間皇子の婚姻

第9話

瑞歯別大王みずはわけのおおきみは自分いる宮の部屋で、考え事をしていた。

それは弟の雄朝津間皇子おあさづまのおうじの婚姻についての事だった。


「さて、これをどう本人に言うべきか。いきなりそんな話しを持ちかけて、納得するだろうか……」


稚野毛皇子わかぬけのおうじには、彼の娘との婚姻は了承したと既に伝えている。

そうでもしないと、本人の妃選びが中々進まないので、今回行動を起こしてみようと考えたのだ。


ただ今回は本人達の意思を尊重する為、強制的な婚姻ではない。

それなら雄朝津間皇子にも納得させやすいと大王は考えた。


「雄朝津間は、適齢期になっても妃になるような姫の元に全く通う事が無かった。であればこちらからどこかの姫を勧めてみるのも悪くはない」


また自分が大王に即位した際に、彼を皇太子にしようと試みたが、本人から辞退されてしまった。

大王的には雄朝津間皇子に、もっと皇子としての自覚をもって貰いたいと言う思いがあった。


そんな事を瑞歯別大王が考えていた丁度その時だった。


「兄上、俺に話ってなんでしょうか?」


1人の青年が大王の部屋の中に入ってきた。

彼は大王の弟で、今彼が色々考え込んでいた張本人である雄朝津間皇子だった。


「雄朝津間、悪いな急に呼び出して」


雄朝津間皇子は、先の大王である去来穂別大王いざほわけのおおきみの宮に住んでいた。ここには先の大王の息子である市辺皇子いちのへのおうじも一緒にいる。


彼は部屋の中に入って来ると、瑞歯別大王の前に来てそのまま座った。


「まぁ、この宮にはまだ来た事がなかったから丁度良かったよ」


歳も18になり、だいぶ子供の頃の面影は無くなったと瑞歯別大王は思う。

今は表だって政り事に参加はしてないが、それ以外の、中々大王が動きずらい所で影で働いてくれている。


本来なら大王を補佐できるだけの高い能力があるのだが、何故か表だって政り事に関わる事を彼は拒んでいた。


「それでだな。実は先日俺達の叔父に当たる稚野毛皇子から連絡があった。何でも彼の娘である忍坂姫おしさかのひめをお前の妃にしたいとの事だ」


「は!?妃に」


大王の言葉を聞いて、彼はまた面倒な話しだなと思った。しかも相手は皇女で、昔一回会った事があるだけの娘だ。

しかもその時遊びに付き合わされ、散々な目に合っていた。


(確かあちらこちらを走り回られて、ワガママだし、何か言うと直ぐ泣きじゃくってたよな)

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