第5話

「うーん、そうですね。あの子には誰が良いのかしら」


百師木姫ももしきのひめも夫と一緒になって考え出した。


和珥わに葛城かつらぎ蘇我そが物部もののべ……私も他の豪族は余り知らないので」


百師木姫自身、息長で大事に育てられてきた姫で、彼女は他の豪族との交流は無いに等しい。



「そう言えば、葛城から皇族に嫁がれた磐之媛いわのひめは、確か皇子を4人産んでましたよね。確かもう1人皇子がいたはず」


「うん、磐之媛?そうか、その手があったか!」


稚野毛皇子わかぬけのおうじは思い出した、磐之媛が産んだ末の皇子の事を。


今の瑞歯別大王みずはわけのおおきみの弟に当たる雄朝津間皇子おあさづまのおうじがいたのだ。


「私の計算では、雄朝津間皇子は今年18歳になられてるはずだ。だが妃を娶ったと言う話しは聞いていない。

今の大王は皇子の頃から政り事に携わっていたが、雄朝津間皇子は表向きには政り事に余り携わってないから、すっかり忘れていた」


「そうですわね。忍坂姫とは従兄弟同士でも、2人は幼少期の頃しか会わせてなかったので、逆に新鮮かもしれません」


百師木姫も雄朝津間皇子が相手というのは、身分的にも釣り合っているので、娘の嫁ぎ先としては申し分ないと思った。


「よし、では早速瑞歯別大王にお伺いを立ててみるか」


稚野毛皇子の中でも、雄朝津間皇子で考えがまとまった。

となると、他の姫に先を越されないよう、急いで話しを持ち掛けたい。



「でも、皇子。まずは忍坂姫にも言わないと」


百師木姫は今にも動き出しそうとする夫を止めて言った。


この婚姻は娘の忍坂姫のものだ。彼女の意思も聞かずに進めるのは流石に母親として忍びない。


「ただこの話しをしても、あの子が素直に動じるだろうか?」


この時代、族同士の政略結婚なんてものは、当たり前に行われていた。


皇族の娘である忍坂姫も例外ではない。


「分かりました皇子。忍坂姫には私か言います。それで良いですね」


妻である百師木姫にそう言われ、稚野毛皇子も渋々了承した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る