采女の誘拐

第61話

大和の冬はとても寒く、雪もかなり降る為、人々は冬の間は余り出歩かない。  


瑞歯別皇子みずはわけのおうじのいる若宮にいた佐由良も、ひっそりと過ごしていた。 


そして季節も3月に入り、やっと春が近づいて来た頃。



佐由良が宮の中を歩いていると、宮の女達が数名集まって何やら話しをしていた。


「何かあったのかしら」

 

その女達の中に、同じ采女うねめ伊久売いくめがいたので彼女に話し掛けてみた。


「ねぇ、伊久売何かあったの?」


伊久売は佐由良が来た事に気づき、彼女に駆け寄った。


「あぁー佐由良、ちょっと聞いてちょうだい!」


「一体どうしたの。何かあった?」


「それが最近、この付近の村で若い娘が次々行方不明になってるの」


「え、若い娘が」


すると他の女達も寄ってきて、佐由良に話し掛けて来た。


「何でも、皆若くて綺麗な娘ばかりで、どこかの盗賊がさらって行ってるんじゃないかって言ってるわ。

それでどの村も娘達が怯えてるらしく、この若宮も安心は出来ないわね」


佐由良の生まれ育った吉備でも、度々海上で襲撃される事はあった。


(でも若い娘をさらって一体どうするつもりなのだろう。)


「やっぱりどこか遠い所に、奴隷として連れて行かれるんだわ」


伊久売もかなり不安に思っているようで、体を少し震わせている。


「とりあえず、瑞歯別皇子の指示で見張りを強化するそうよ」


「あとは私達自身も出来るだけ1人にならないようにしましょう」


「本当そうよね」


などと女達は言い合っていた。


(とりあえず、用心はしておかないと。)


佐由良も他人事でないと思った。

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