第60話
そんな様子の佐由良を見ていた瑞歯別皇子は、思わず彼女に言った。
「つまり、そいつがお前の想い人だったって訳か」
そう言って、
どうも彼にはこの話しは面白くなさそうだ。
「え、彼はそんなんじゃないです。ただの大事な幼なじみのような存在で」
(え、皇子にはそんな風に見えたの?私はそんなんじゃないのに……)
佐由良は、また彼の機嫌を害してしまったのかと思って、思わずうつむいてしまった。
「別に、お前は今大和にいる訳だから問題はない。まぁしいて言うなら、もう俺の前でその男の話しはするな」
(こいつの口から、他の男の話しを聞くとどうも苛立ってくる)
「分、分かりました。そう致します」
佐由良は皇子に怒られずに済んだのでほっとした。
(しかし、佐由良が吉備でそんな待遇を受けていたなんて、全く知らなかった)
瑞歯別皇子は思わず佐由良の腰に腕を回し、自分に引き寄せた。
「瑞歯別皇子!」
「佐由良、もう俺はお前の事を嫌ってはいない。だからこれからも大和にいろ」
そう言って皇子は、彼女に顔を近づけた。
(え、何これ!)
佐由良が思わず目をつぶった瞬間、彼女の肩に皇子は持たれた。
そして「スゥー」と寝息が聞こえて来た。
(もしかして、お酒に酔って寝ちゃったの)
彼は政り事の仕事で、きっと疲れ果てているのだろう。ここ最近はずっとこんづめ状態だったはずだ。
「はぁーびっくりしたわ」
佐由良はそっと皇子を横に寝かせて、布を被せてやった。
「じゃあ皇子、私は仕事に戻りますね」
そう言って佐由良は皇子の部屋を後にした。
その移動中、お酒で酔っていたとは言え、もう自分の事を嫌って無いと言われて、佐由良はとても嬉しく思った。
(でも皇子ってお酒が入ると、ちょっと大胆になると言うか、いつもと雰囲気が違うのね。少し心臓の鼓動が早くなってる……)
その後しばらくして、皇子もふと目を覚ました。
「あれ、確かここに佐由良が来て一緒に酒を飲んでいたはず......あいつ帰ったのか。
確かあいつの吉備での話しは覚えているが、それ以降があやふやだな。何か変な事を言ってないと良いが」
その後、皇子は残りの仕事に取りかかった。
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