第29話

「え、私が美人?そんな事言われたの初めてだわ」


佐由良は思いもよらない事を言われて驚いた。今までそんな事はとても考えられなかった。


「え、あなた気が付いてなかったの?他の男子達も、何気にあなたを見てる人多いわよ。さすがは吉備のお姫様だなと」


胡吐野ことのからしてもこれはかなり意外だった。


佐由良がこの宮に来た当初、彼女の事は直ぐに話題になった。

年はまだ13歳だがとても綺麗な顔立ちで、思わず守りたくなるような、そんな繊細な感じに思えた。

だが釆女である以上、誰も彼女にはよう手が出せない状況である。


「私そんなの知らないわ。その異性に言い寄られた事もないのに……」


佐由良は恥ずかしくなって、顔を下に向けた。こんな事を話すだけでも自分が情けなく思えて来る。


「まぁ、あなた年の割にしっかりしてると思ってたけど、色恋事に関してはまだまだなのね」


吉備海部にいた頃は、族の若者達からはいつも嫌がらせを受けていた為、むしろ苦手な存在であった。

唯一仲良くしてくれてたのが、従兄弟の阿止里あとりだけだった。


「それに、瑞歯別皇子みずはわけのおうじもまだ妃を取ってないから、いずれ皇子に取られておしまいだと宮の男達が嘆いてたわ」


それを聞いた佐由良は、とても驚いた。


「皇子が私を娶るなんて、絶対あり得ません!」


「まぁ、皇子は吉備自体を嫌ってるから、確かにそうかもしれないわね。

あぁ、皇子の変なこだわりが無ければ、あなた娶られてたかもね」


何て話しを聞いてしまったのかと佐由良は思った。

瑞歯別皇子は自分の事を嫌ってるから、そんな事になるはずはないと思っていた。


そもそも自分が男達に見られてると言う事自体思いもしなかった。


ただ釆女としてここにいる以上、手を出せるのは瑞歯別皇子のみって事になるのだろうか。


(住吉仲皇子の元にいた頃は、大和に来たばかりでそんな事気にも止めてなかったわ)

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