第20話

翌日、佐由良がいつものように仕事をしていると、


「佐由良、大変な事になったわ!」


加那弥かなみが凄い勢いで、彼女に走り寄って来た。


「加那弥一体どうしたの」


「とにかく、とにかく、本当に大変なのよ!!」


加那弥は彼女の肩を揺らしながら言った。


「加那弥、落ち着いて訳を話して」


加那弥は、少し息を整えてそれから彼女に話した。


「昨日、住吉仲皇子すみのえのなかつ黒媛くろひめ様の所に行かれたみたいなの」


「え、皇子が黒媛様の元に?」


「それで、実は住吉仲皇子は、前々から黒媛様を好いていたらしく、昨日無理矢理黒媛様をご自分のものにされてしまったの。そしてこれから去来穂別皇子いざほわけのおうじを討つつもりらしいのよ」


「え、住吉中皇子が……そ、そんなの嘘でしょ!」


「嘘じゃないわ。今皇子の兵達が、去来穂別皇子のいる宮に行ってて、間もなく宮が取り囲まれるわ」


佐由良はその話を聞いた瞬間、頭が真っ白になり、その場に座り込んでしまった。


確か以前、住吉仲皇子に好きな人がいると聞いていたが、それが黒媛だったのだ。


「住吉仲皇子、どうして」


佐由良はその場で泣き出してしまった。


その様子を見ていた加那弥、彼女をなだめるかのように言った。


「とりあえず、私達にはどうする事も出来ないわ。しばらく様子を見ましょう」



その後の知らせで、去来穂別皇子はすでに宮を脱出して、石上神宮いそのかみじんぐうへ逃げているとの事だった。


そうなって来ると住吉仲皇子の方も段々と不利になってくる。


(私達はこれからどうなるの……)


佐由良はただただ祈るばかりだった。

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