第18話

翌日、去来穂別皇子いざほわけのおうじとも住吉仲皇子すみのえのなかつを通してだが、少しばかりだが話が出来た。

皇子は最近出来た后である葛城の黒媛くろひめをたいそう気に入っているようで、声は鈴の音のようでとても愛くるしく、それはそれは美しい娘なのだそうだ。


黒日売くろひめの伯母様もとっても綺麗だけど、葛城の黒媛様もさぞお美しい方なんでしょうね」


佐由良はまだ一度も会った事のない黒媛を一人勝手に思い描いていた。


だがその時住吉中皇子が少し元気が無い感じがした。


「どうかされましたか?」と佐由良が聞いても、


「いや、何でもないよ」と言うだけである。


(住吉中皇子、何か変だわ)


佐由良も気にはなったが、そう返されてしまっては何も言えず、それ以上は触れない事にした。


またもう一人の皇子である瑞歯別皇子みずはわけのおうじも話には入っていたが、それほど関心を持って聞いている感じがしなかった。


(もしかして、私がいるのがやっぱり嫌なのかしら)


佐由良が思わず瑞歯別皇子に目をやった。


加那弥かなみの言うように見ためだけで言えば本当に美しい皇子だと彼女も思った。

背も高く凛としていて、また綺麗な顔立ちが彼の魅力をさらに引き立てていた。

采女の女達が彼に心惹かれるのも分からなくない。



そうこうしていると向こうが佐由良の視線に気づいたのか、思わず皇子と目があってしまった。


「え……」


佐由良は皇子に見られて思わずビクッとした。


しかし彼は少し表情を歪ませてすぐにそのままふいと顔を背けてしまった。


「そ、そんなに嫌なの……」


佐由良は悔しいやら悲しいやらで、何ともやるせない気がした。


(仕方ないわ、最初自分の前には余り顔を出すなって言われているし)


大和に来てからは相手に拒絶されるような事がなかっただけに彼女は少し傷ついた。


「これもあとしばらくの辛抱よ」


そうしてその日の内に、皇子達は自分達の宮へと帰っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る