第85話
翌日、昼の便に乗って、東京に帰るため早めに身支度を終え、食堂で朝食をとっていると、おばあが来ていた宿泊客の写真を撮っていた。
よくよくみると、食堂の壁にはこれまで来た宿泊客と思われる人たちの写真が並べて貼り付けらている。
順々に写真を撮って回っていたおばあに突如カメラを向けられ、私が戸惑っていると
「どうせ死ぬし、いいんじゃん。これくらい」
普段だったら写真なんて嫌がりそうなカナメが、今日はそう言ってカメラに顔を向ける。
写真なんてほとんど撮られてこなかった。
学校でも撮る側に回ることがほとんどで、いざとなるどんな顔をしていいのかわからない。
おかげで中学の卒アルの写真は最悪の仕上がりだった。
それを思い出し、ふと気がついた。
もし今私が自殺したら遺影にはあの写真が使われるのだろうか。
ほとんど映っている写真がない私の場合その可能性は極めて高い。
考えただけでゾッとした。
とりあえず遺影用の写真はまた別に準備しておかなければいけない。
新たなミッションが加わる。
そんなことを思いながら、予行練習としてカメラの前で不器用に笑って見せる。
仕上がった写真を見せてもらうことは出来なかったけれど、代わりにおばあが手作りのサーターアンダギーを持たせてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます