第85話

翌日、昼の便に乗って、東京に帰るため早めに身支度を終え、食堂で朝食をとっていると、おばあが来ていた宿泊客の写真を撮っていた。


よくよくみると、食堂の壁にはこれまで来た宿泊客と思われる人たちの写真が並べて貼り付けらている。


順々に写真を撮って回っていたおばあに突如カメラを向けられ、私が戸惑っていると



「どうせ死ぬし、いいんじゃん。これくらい」



普段だったら写真なんて嫌がりそうなカナメが、今日はそう言ってカメラに顔を向ける。


写真なんてほとんど撮られてこなかった。


学校でも撮る側に回ることがほとんどで、いざとなるどんな顔をしていいのかわからない。


おかげで中学の卒アルの写真は最悪の仕上がりだった。



それを思い出し、ふと気がついた。



もし今私が自殺したら遺影にはあの写真が使われるのだろうか。


ほとんど映っている写真がない私の場合その可能性は極めて高い。


考えただけでゾッとした。



とりあえず遺影用の写真はまた別に準備しておかなければいけない。


新たなミッションが加わる。



そんなことを思いながら、予行練習としてカメラの前で不器用に笑って見せる。


仕上がった写真を見せてもらうことは出来なかったけれど、代わりにおばあが手作りのサーターアンダギーを持たせてくれた。

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