第72話

もちろん、これも〝記録〟としてスマホで撮影する。



向かいで早速ステーキに喰らいつくカナメを横目に、撮影を終え、ナイフで肉を切り取っていく。


切っている途中からこれは絶対にやばい、という手応えがあった。



ミディアムレアに焼かれた薄ピンク色


「やばい」と先に味わい始めていたカナメが呟く。


期待をさらに上げて、口の中に放り込む。



口に入れた途端、体温だけで溶けた。


舌の上でその味わいを噛みしめる暇もないほど、あっという間に、肉は上質な油に変わってするりと喉を潤していく。



ごくり、と喉を鳴らす。



「確かにやばいね、これは」



初体験、とはこのことだ。


これまで食べたことのあった一番美味しかった肉、の記憶をいとも簡単に塗り替えられた。

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