第63話

思わず私は持っていたアイスをカナメに預け、周囲の人たちと同じようにスマホを取り出しカメラを構えた。



「写真、撮ってどうすんの」



そんな私の背中に向かってカナメが言った。



「どうするって、どうもしないけどただの思い出じゃん」


「どうせ死ぬのに?」



そう言われ、喉の奥がひゅっと狭まって、言葉もなかった。




初めての飛行機、初めての石垣島、初めて見る美しい景色につい舞い上がっていたとはいえ、ついうっかり忘れていた。




私たちは近くで記念撮影をする観光客たちとは違うのだ。


これは思い出作りの旅行なんかじゃなく、人生の精算の旅なのだから。




どうせ死ぬのに思い出の写真なんて残しておいて何になるのだろう。



9月がくればもう二度と見返すことなんてないのに。

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